12.
その一隊は、戦場の中にあって浮いていた。
新神戸ペイントリウムで発生した、大規模な風景画術。内部で起こっているハフフィックによる暴動。この事態に当たって、KAWASAKI政府は急遽鎮圧のために政府軍を出撃。ペイントリウム内での作戦行動を開始した。他のICUC圏からもクラウドベルト経由で応援部隊が駆けつけ、大規模な掃討が始まった。
その中に、ICUCの登録IDを持った完全武装のFタイプでありながら戦闘に参加せず、何かを探し求めるように移動を続ける一団があった。数にして三個中隊のそれらはなぜか友軍に対して隠密行動を取りつつ、独自の作戦を展開していた。
『目標、先行試作機の固有アサインを探知。目標地点までおよそ3分』
『第24中隊全機に通達。我々はこれから“独自行動”に入る。各機、作戦プランに従い迅速な行動を期待する』
散開して索敵を続けていた中隊の一つが、速度を上げて先行する。これまでのようにあてどない軌道ではなく、決まった地点に向かって一直線に。
全30機の中隊は、完全な廃墟と化したドームの周囲に順次着陸した。油断なく周囲に警戒態勢を敷き素早く陣形を構築する様は、練度の高さを表していた。
『既に戦闘の形跡があるな。しかもこりゃあ結構ハデにやりあったらしい』
中年の男がフランクな口調で建造物があった周辺を睥睨した。
『崩壊したドーム内部に感あり。生体反応はありますが、恐らく、もう……』
『我々の目的はあくまで問題の機体が収められたISDだ。持ち主が死んでいようが構わん。掘り出せ』
『
4機のハフフィックが作業用のアームを展開し、瓦礫を細かく砕きながら押しのけていく。ものの数十秒で、付近は更地へと変わっていた。
『ブランクライト大尉、これは……』
『どうした少尉、早く回収を――』
大尉と呼びかけられた女性は機体を発掘された場所へ飛ばした。そこには自らの血におぼれた少女が一人、その凄惨な肢体を晒していた。
『これは、どういうことだ』
『間違いなく目標の反応はこの少女から発されていますが……』
女性はコクピット内で一枚の画像情報をウィンドウに投影する。そこには独自の情報網で入手したターゲット、北米協商軍が探し求める着物姿の少女の姿が映っていた。
『――伊瀬燈香ではない。別人だ』
『どうするかね、これから脱走兵を率いる大尉さんよ。ボンヤリしてると我らが親愛なる同志共にケツを突かれるぞ』
『……』
北米協商所属特殊機動連隊第24中隊隊長、エーリナ・ブランクライト大尉は、その符号が指し示す意味を黙考した。そしてそれがどのような未来を自分達にもたらすのかを予測し、次なる一手を決めた。もう状況は動き出している。もはや立ち止まることは許されなかった。
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