21.今更の進学
「え、えっと……なんか、誠そういうの、似合わないね」
どんな返事をもらえるのかと少し期待していれば、彼女はいつもどおりを装って俺を茶化してきた。
しかし、その真っ赤な顔を見れば、照れ隠しの言動だと分かる。
「お前が言えと言ったんだろ。それで、返事は?」
「あ、えっと」
結論は予想出来ているにも関わらず、心に余裕が無く急かしてしまう。
彼女はそれに少しだけ慌て、姿勢を正す。
「わ、私からも、お願いします。……でいいのかな?」
何と言えばいいか分からないといった様子で、たどたどしい返事をする由梨香。
俺でなくても正解は分からないものなんだな。
彼女は若干はにかんでいる。
それを見た俺は、殆ど無意識に彼女の肩を引き、抱き寄せていた。
「わ、な、何急に!」
「いや、分からん」
本能的にとしか言えない行動。
たぶん、可愛らしいと思ったからだろう。
驚いて離れようとする由梨香だが、どうも心地よくて少し力を込めてしまう。
すると、一瞬ビクッと反応した彼女はそのまま抵抗する力を抜いた。
「わ、分かんないの?」
「分からないが、なんだかすごく落ち着く」
今まで胸が痛かったのは何だったのかと思うくらいの安らぎ。
「私も落ち着くけど……ここ、外だから」
「あぁ、そうだな」
俺の胸を軽く押して離れようとした由梨香をそのまま解放する。
離れた彼女は直ぐに顔を反らして髪で隠す。
恥ずかしいようだが、耳が真っ赤だから上手く隠せては無い。
なんにせよ……これで俺と由梨香は恋人と言う関係になったはずだ。
目に見えた実感は無いが、先ほど彼女を抱きしめたときの感覚が、きっとそうなだろう。
「あー、恥ずかしい……」
「それで、付き合ったら何をすればいいんだ?」
顔が熱いのか手でパタパタと扇ぐ由梨香に問いかける。
すると彼女はこちらを振り向き、驚いた顔をする。
その後、直ぐに呆れる表情に変わったが。
「いいんだよ、今まで通りで。付き合うって、ずっと一緒に居るって事だから」
「そうなのか。ずっとって、結婚するまでか?」
それを確認すると、また顔を真っ赤にした由梨香。
忙しいな。
「け、結婚って、そこまでの話してないじゃん」
「だってずっとだろ?結婚して、子どもが生まれてもずっと「も、もういいってば!気が早いんだよバカ!」
肩をバシッと叩いた由梨香は完全に後ろを向いてしまった。
また何か変な事を言ったのかもしれないな。
ちゃんと調べておこう。
「と、とにかく。誠は今まで通りで良いの!」
「よく分からないが……分かった」
由梨香と付き合えば恋愛1年生から進学出来るかと思ったが、そう甘くも無いらしい。
「じゃあ、えっと……あ、明日からもよろしく」
「あぁ、よろしくな」
言うことに困ったような由梨香は、横顔だけを俺に見せると、そう言って自宅の方へ歩き出した。
今まで通り、か。
それなら。
「由梨香」
「何?」
名前を呼ぶと少し先で立ち止まり、やはりまだ恥ずかしいのか顔半分だけをこちらに向ける彼女。
「俺、お前の事好きだぞ」
互いに意味を分かった上で初めて伝えた言葉。
それを聞いた由梨香は、一度背を向ける。
それから、バッと勢い良くこちらを振り返り、満面の笑みを見せてくれた。
「私も、誠の事好きだから!」
叫び、逃げるようにして家に走って行く由梨香。
彼女が見えなくなるまで見送ってから、自宅へ向かう。
恋愛か。
俺が興味無かった物。
今更ながら、結構いいものだなと思えた。
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