20.突然の結末


「問題無い。家は直ぐそこだからな」

「んー、分かった。気をつけてね」


一度別れ道で立ち止まり、由梨香を安心させようと微笑んで見せる。


そうすれば、彼女も笑ってくれた。

これで一安心……。



しかし、直後に首を横にかしげる由梨香。


「あれ?ねぇ、誠」

「どうした?」


まだ気になる事があるのか、問いかけてくる由梨香。


「その、恋愛感情?ってさ。いつから気付いてた?」



何かと思えば、さっきの話の続きだった。

いつだったかはちゃんと覚えている。



「1ヶ月前だ。鈴木達に教えてもらった」

「1ヶ月前?」




由梨香は思い出すような素振り。


そしてゆっくりと目を見開くと、同時に顔も真っ赤になっていった。


「ま、待ってよ。ちょっと、そ、それって」

「おい、落ち着け。急にどうした?」


急にアワアワと落ち着かなくなった由梨香。

俺が肩を抑えて落ち着かせようとするが、触れる前にバッと後ろへ飛び退いた。


「さ、触んないでバカ!」

「何でだ」



急な様子の変わりように流石に戸惑う。

相変わらず彼女は落ち着かない。


「じゃあそのままで良いから聞いてくれ。何があった?」

「き、気付いて無いの!?1ヶ月前から昨日まで、誠、何て言ってた?」


そう言って、由梨香は足元を指差す。そこには何も無いが、この場所って事か?


この場所で、俺が言った事といえば……。




「ここでは、いつも帰りに由梨香にす……」




そこまで言って口をつぐんだ。

何の話をしているか分かったから。


1ヶ月前から昨日まで、学校帰りにここで、由梨香に好きだと伝え続けたんだった。

しかも、好きの意味を知ってからも言い続けていた。


それに由梨香が気付いたんだ。


つまりだ。

俺が由梨香のことを、異性として好きだと伝わった事になる。



「……いや、忘れた」

「う、嘘つき!顔赤くなってるじゃん!」


今更ながら事の重大さに気付き、反射的に誤魔化す。

しかし、自分でも分かるくらい顔が熱くなっているので直ぐに由梨香にばれた。



「しかたないだろ。というか、由梨香だって言ってたじゃないか」

「い、言ってないよ!」


同じように誤魔化す由梨香。

言っただろ、好きって。


しかも彼女は前から恋愛感情を知ってたはずだ。


「そもそも、初めに好きと言ったのは由梨香じゃなかったか?」

「違うよ!誠が意味も分からず好きなんて言ったんだよ!」

「由梨香だろ」

「誠だよ!」



それから、どっちが好きと言い始めたか1分程言い合い、結論が付く前にかなり恥ずかしい内容を叫びあっている事に気付き、二人揃って俯いた。


ちなみに、途中で気付いたが最初に言ったのは俺だった。



「……そ、それで、本当にその……私の事、好きで……好きって言ってたの?」


由梨香が言ったのは変な日本語だが、意味は分かった。

そのつもりで言ってたから。



「そういうことに、なるな。少なくとも、ここ最近は」

「そ、そっか。実は私もね?……そういう意味で、返事してた」


一瞬顔を上げれば、たまたま由梨香と目が合ってまた顔を反らす。

今は相手を見るだけで照れくさい。


これが両想いってやつか?

何となく息苦しいというか、さっきから胸が高鳴ってうるさいぐらいなんだが。

変な感じだ。



「な、ならさ……ち、ちゃんと言って」


そんな俺に、由梨香は試練を与えてきた。

恐らく、告白しろって事だよな。


お互い伝え合ってるから必要無いだろ。なんて、少し前の俺だったら間違いなく言ってたな。


だが、俺も少しは変わらなくては。

そもそも、さっきのが告白では俺も納得いかない。



「分かった。由梨香、こっち向いてくれ」

「えっ、あ、はい」


一歩近づいて言ってみれば、緊張して敬語になってしまっている由梨香。


顔が真っ赤な彼女を真っ直ぐ見て、俺も同じなんだろうなと笑いそうになるのを堪え、次の言葉を紡ぐ。




「俺と」





「付き合ってくれ」




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