19.進歩の理解


「あ……えっと、誠」


教室に来たのは、俺の予想通り由梨香だった。

彼女は俺を見ると、その場で立ち止まった。


名前を呼ぶ声色からして、さっきの事を怒りに来た訳では無いようだ。

どちらかと言えば、申し訳なさそうな表情をしているように見える。


「さっきはごめん。つい感情的になっちゃって」

「いや、いいんだ。俺がひどい断り方したんだから、仕方ない」


由梨香は謝ってくるが、彼女は何も悪くない。

俺が怒られたのは当たり前だ。


好きじゃないなんて言われ方すれば、普通に考えて傷つくだろ。

泣いていたのが何よりの証拠で、佐藤さんの友達である由梨香が感情的になるのは理解できる。


2人して俯き気味のまま、沈黙してしまう。

互いに悪いと思ってた為か、すぐ次の言葉をかけられない。



「……とりあえず、帰らない?」

「あぁ、そうするか」


少し気まずい空気の中、切り出してくれた由梨香に頷いて自分のかばんを持つ。


彼女が俺に気を使ってくれるのが分かる。

不謹慎かもしれないが、こういう優しさに俺は惹かれているのかもしれないな。


そのまま2人並んで歩く。

昇降口を出て、校門へ。



「ねぇ、1つ聞いて良い?」

「何だ?」


歩きながら問いかける由梨香。

俺は彼女の方を向くが、彼女は前を向いたまま。


「何で、佐藤さんに好きじゃないって言ったの?」


質問の内容に少し身構えてしまう。


特に怒りの感情があるように見えないので、純粋な質問なんだとは分かる。

それなら、これで彼女に与えてしまった誤解を解くことが出来そうだ。


「好きじゃないってのは言葉を間違えたんだ。彼女は友達としてはそれなりに好きだが、それ以上の感情は無いって意味だった」


先ほどの答えをしっかり説明する。

すると、由梨香は驚いたようにこちらを振り向いた。



「え?誠、そういう区別出来るようになったの?」

「当たり前だろ」


区別ぐらい出来る。

1ヶ月くらい前からな。


「え、じゃあさっきのって告白だって分かってた?」

「分かってる。出なければ断って無いだろうな」


まぁ、今までの俺の知識からすれば、告白の意味を知らないと思われていてもおかしくは無いが。

というか知らなかったな。



「そ、そうなんだ。分かった上で断ったんだね」


俺に恋愛に関する知識があると分かった由梨香は、どこか安心した表情になった。


「どうした?何か不安だったことがあったのか?」

「へ?べ、別に何でもないよ?」


表情の意味が気になって聞いてみたが、ぱっと俺から顔をそらしてごまかす由梨香。


これをやるときは何かを隠してるんだろうが、あまり問い詰めると機嫌を損ねるから止めておくか。




ん?




そこで俺は、今のやりとりに違和感を感じた。

会話を頭で繰り返す。



――

―――


「どうした?」

「べ、別に何でも」


―――

――



何処かで聞いたことあるフレーズ。

というか、これは俺が由梨香に言わせようとしていた言葉だ。



まさか、これでフラグが立ったということか?

つまり。


由梨香が、俺の事を好きだって意味、だよな?

前から分かってはいたが、これが何よりの証拠に……。



「っ……」

「ちょっと、どうしたの?胸なんか押さえて」


そう認識した瞬間、

一気に胸が苦しくなった。

同時に顔も熱くなった気がする。


胸を押さえたのを由梨香に見られ、心配されて顔を覗きこまれて更に悪化。



「いや、何でも無い」

「本当?体調悪いなら家まで行こうか?」


真っ直ぐと立ち、ちゃんと歩いて見せる。

それでも、まだ心配そうに着いて来る由梨香。



そんな彼女と普段別れる別れ道が、直ぐそこまで近づいてきていた。

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