18.答えの訳


「誠!いくらなんでもそれは無いじゃん!何よ、俺は好きじゃないって!」


話が聞こえていたのか、佐藤さんから聞いたのか分からないが、俺の言った言葉を咎める由梨香。


彼女は激怒していた。

そんなの、近づいてきたときから分かってたが。

叩かれた頬の痛みからも、その感情が伝わってくる。



「いくらそういう気持ちとか分からないからって、相手の気持ち考えられない人じゃなかったじゃん!」



由梨香はそういうが…違うんだ。

そういう気持ちが分かってしまったから。

だから、「好き」か「好きじゃない」かでしか答えられなかったんだ。


何も知らない俺だったら、「俺も好き」と返していただろう。

今まで由梨香に言っていたように。


でも、ここで好きって言ってはダメだと知ってしまったから。



「悪い。彼女の事は好きだが……好きじゃなくてだな「はぁ?意味分かんない。もういいよ」


俺の真意が全く伝わら無かったようで、呆れた由梨香は踵を返してしまう。

このままではダメだと思い、彼女の手首を掴む。


「待ってくれ。どこ行くんだ?」

「離して!さとっぺのところに行くの!」


それだけ言うと、俺の腕を振り解いて来たばかりの屋上の出入り口の扉を戻って行ってしまった。


恐らく、俺の尻拭いというか、佐藤さんを慰めに行ってくれるのだろう。

それは助かるのだが……由梨香には誤解されたままになってしまった。



「やっぱり、難しいな」



知ったら知ったで、取り扱いが難しい感情だと分かった。


いつだかと同じように呟き、ジンジンと痛む頬を押さえながら教室へ戻ることにした。



屋上の扉を開けても、そこには誰も居なかった。

いつもであれば、俺をからかう為に潜んでいるだろう田中と鈴木でさえもだ。

まぁ、仕方ないが。


と言うのも、俺があの手紙の中身を見ずに田中に渡したからだ。

中身を見た田中は「嫌がらせかよ!」と俺にその手紙を投げつけて何処かへ行ってしまった。


それはそうだ。

宛名は俺だったんだから。


鈴木が探しに行ってくれたが、恐らく怒ってそのまま帰ってしまったのだろう。



それは明日謝れば何とかなるかもしれないが……ここまで心が乱れると、考えてしまう。



この好きって感情、必要か?



今の所、気付いて良かったと思える事は何も無い。

胸は痛いし、友人を怒らせるし、人を傷つけるし。


どう考えても要らないだろ。

知らなければ、皆でまだ笑えてただろうに。


それでも、この気持ちが名残惜しいのは何でだ。

訳が分からない。



考え事をしながら教室まで戻ってくる。

そこにも誰も居なかった。


今日は金曜日。

部活やら遊びやらで皆早々に帰っていたからな。


教室には、ぽつんと俺のかばんだけが取り残されていた。

もしかしたら隣りのクラスに由梨香が居るかも……と思ったが、さっきひっぱたかれたのを思い出した。

さすがに、あれだけ怒ってれば帰ってしまっただろう。


半端だった帰り支度を済ませ、かばんを担ぐ。

久々に一人での下校だ。

隣りが居ないって、こんなに寂しいんだったか。



そんな事を思ったところで、廊下をゆっくり歩く足音が聞こえた。



その近づいてくる足音が……何故か、誰のものか分かった。



担いだばかりのかばんをまた机に下ろす。

少しして、教室の後ろ扉に現れた彼女と目が合った。

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