16.嫉妬の作戦



「誠、最近よくこっち来るよね」

「ん?ああ、そうだな」



鈴木達が協力してくれるようになってから、早くも2週間。

前期を区切るテストが終わり、もうじき夏休みだ。


どうやら恋愛に焦りは禁物との事。

じっくり時間をかけて作戦を進行しているらしいが……俺には何をやっているかさっぱりだ。


由梨香との関係は今だ平行線のまま。

胸の痛みはかなり落ち着いたが、その分彼女にもっと近づきたいという感情が大きくなってきていた。


だが、彼らに任せっぱなしでは悪い。

俺なりにちゃんと勉強をした、テスト期間中に。



鈴木から借りたポータブル恋愛シミュレーターなるものを使って、一通りの王道パターンと言うものを必死に学習した。

あれの名前は……たしか、美少女ゲーと言うんだったな。


とても勉強になった。

もう恋愛1年生は卒業できるんじゃないだろうかと思っている。



「それって、やっぱりさとっぺがいるから?」

「そうだな。彼女と話をするのは新鮮で楽しい」



変化があったのはそれだけじゃない。

由梨香が指差した方を一緒に見る。



「た、田中君って泥食べるの?」

「今日の弁当も泥団子じゃなかったっけ?」

「ちっげーよ!適当な事言うな!」


そこには、由梨香のクラスに居座って1人の女の子と楽しそうに話す鈴木と田中の姿があった。

俺達はそれを出入り口から眺めている状態だ。


その女の子は、いつだか田中がタイプだと言っていたテニス部で一番小さい佐藤さん。

由梨香はさとっぺと呼んでいる。



鈴木に聞かされた作戦は、『実際に嫉妬させて見せる』というぶっつけ本番の内容だった。


それで、たまたま田中の狙いかつ由梨香と同じクラスだった彼女に声をかけた所、普通に話をしてくれるようになった。

彼女と仲良くなって、由梨香を嫉妬させる作戦らしい。



それはいいことなんだが、あの2人は当初の目的を覚えてるんだろうか。

俺をここに放置して、すっかり佐藤さんとのおしゃべりに夢中になっているのを見ると不安になる。



「ふぅん。誠はロリコンだったんだ」

「違うぞ?俺は人間だ」


俺の返事に、由梨香は何故か首をかしげた。

俺も何故伝わらないのかと首を傾げる。



「……別に、何でもいいけど。早くあっち行けば?」




惜しいな。




俺が「どうした?」と聞いた後の「別に」が聞きたかったんだが。

次を待つしかないか。


「そうだな。行くぞ」

「ちょ、私も?」



何故か俺を3人の方に追いやろうとする由梨香だが、それでは俺がつまらないので手首をつかんで一緒に連れてくる。

彼女は一瞬戸惑うが、どこか嬉しそうにしたようにも見えた。



「誠。田中って昼何食ってたっけ?」

「あぁ、泥だろ?」

「お前、聞こえてただろ!」


あれだけワイワイ騒いでいれば流石に聞こえる。

話を鈴木に合わせてみれば、面白かったようでまた盛り上がった。



「あ、花田君。これ……後で見てもらえる?」

「ん?構わないが、これは?」


談笑の途中、隣りに居る佐藤さんからコソコソと渡されたのは……便箋だった。



俺は、最近シミュレーターでこれと同じような物を見た覚えがある。


その神聖なる手紙は……ラブレターと呼ばれるものだろう。



チラッと田中を見る。

彼は鈴木と由梨香との会話に夢中で気づいてないみたいだ。



「誰宛だ?」

「えっ……な、中に書いてあるから……」


一応宛先を確認しようと思ったのだが、自分の口で言うのは恥ずかしいようで口ごもった。


俺はそれを察し、ただ頷いてそれを制服のポケットにしまった。

そして何事も無かったように皆の会話に戻る。

横目では、ホッとした表情の佐藤さんも会話に戻った。




予習をした為か、今の状況がわかって少し嬉しい。

この手紙は、田中に宛られた物だろう。

良かったな田中。


シミュレーターでは、片想いを続けていると運よく相手からラブレターをもらうという展開があったから、間違いない。



心の中で田中を祝福しながら、何気なくこの時間をやり過ごす。

ラブレターは、昼休み終わりにでも渡すか。


そんな事を考えている俺を、由梨香にしっかりと見られて居た事には全く気づかなかった。


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