15.恋愛の参考書
しかし、物事はそう上手くは行かなかった。
というより、俺はこの感情の難しさをナメていた。
決意をしてから数日で、言葉で伝える事は出来るようになった。
しかし、なかなか感情が伝わらない。
そして、それを今日も繰り返す。
「由梨香」
「ん?」
いつも通り終わった学校。
下校途中、由梨香と別れる交差点で1度立ち止まり、彼女を真っ直ぐ見据える。
「お前の事、本当に好きだ。本当にだぞ」
毎日、別れ際に伝える台詞。
結果は見えている。
もう4回も見たんだから。
「ありがと、私も好き」
「あぁ、ありがとう」
お互いの好意を伝え終わると、じゃあね、と手を振って帰る由梨香。
俺は小さく手を上げるようにして返す。
彼女が前を向いたのを確認して、自分の家の方へ体を向ける。
「って、なんでだよ!」
「そのやり取り、意味あるのか?」
大げさなツッコミをする鈴木と、最もな疑問を持つ田中。
好きという感情に気づいたにも関わらず、一向に変わる気配の無い俺と由梨香の関係。
あれから毎日病に侵されて弱っていた俺を心配して、友人たちは今日ここまで付いて来てくれていた。
「ここまでで、何が悪いと思う?」
「今までのお前の生きかただろ」
「無関心は流石にまずかったんだろうな」
2人の意見にぐうの音もでない。
今まで、恋愛感情には興味が無かった。
知ろうともしていなかったから、言葉の意味でさえ歪んで受け止めていた。
しかも、俺がそういう感情を知らないという事を、由梨香はわかっている。
だから、俺がその感情に気づいた後で言っても、逆に由梨香が気づか無い。
これが、現状だ。
「高校1年生で恋愛も1年生とか、お前くらいだろ」
「俺が中学校の頃でも、魚の鯉だとは思わなかったからな」
今が1年生なら、今までは0年生だったんだろう。
いや、知らないのより酷いんだから、数値で言えばマイナスだろう。
「気持ちが伝わる前に、心臓が止まりそうだ」
「しかたねぇ。先輩の俺が何か考えてやるよ」
「お前、彼女居た事無いのに良くそんな事言えるな」
俺を応援してくれる鈴木に、田中は真実を突きつけてくる。
俺はそれを聞かなかったことにした。
「先輩、まずはどうすればいい?」
「このパターンは、美少女ゲーの参考書によるとだな」
「お前達ふざけてる?何でそんな真顔なの?」
鈴木は自分のかばんからノートのようなものを取り出す。
田中はひたすらツッコミを入れてるが、この鈴木の顔を見てどこがふざけてると思えるんだろうか。
「てか、参考書があるなら貸してくれないか?」
「専門用語が多すぎて読めないと思うぞ。あ、あった、この方法で行こう」
1年生に成り立てでは参考書も読めないのか。
恋愛は難しいと聞いたが、確かにそうかもな。
ちなみに田中は諦めたらしく黙った。
そんな中、鈴木は参考書に書いてあることを音読してくれた。
「『嫉妬をさせれば、ムキーッとなるかモンモンとなる。そこで声をかけて「別にっ」と言われればフラグが立つ』らしいぞ」
確かに専門用語が多すぎる。
何語だ?
「翻訳してくれ。フラグって何だ?」
「簡単に言えば、好きって意味だ。他は……」
一部だけ簡単に教えてくれたが、他の説明は悩むのか、腕を組んで悩んでいる様子だ。
少しして、そうだと何かひらめいたようで、1人で頷く。
「やってみればわかるだろ」
「なるほど、そうしてもらえると助かる」
習うより慣れろと言うからな。
出来ることなら実際の現場を見てみたい。
「よし、じゃあ作戦は考えておくから。お前はゆっくり休め」
「いつも悪いな。ありがとう」
「お前、完全に先輩面だな」
尊敬の念を送ったのが通じたようで、気分の良さそうな鈴木が色々取り計らってくれるらしい。
それなら、俺は明日に備えて早く寝るか。
何をやらされても全力で出来るようにしておこう。
そういえば……別に、と言うのは由梨香の口癖だったような気もする。
意識して言わせるのは難しいかもしれないが、彼女に近づく為にいろいろ考えてやってみるか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます