13.痛みの共感
朝、俺は完全に油断していた。
「あ、おはよう、誠」
「……おはよう」
玄関を出て直ぐ、いつの間にか出来た習慣通りに由梨香が待っていた。
昨日一日中頭から離れなかったその姿を見ただけで、胸が1度大きく跳ねた。
この病、死なないとは言われたが……いつか死ぬだろ。
結構痛いぞ。
「何今の間。何か隠し事?」
「いや、何でも無い」
動揺で立ち止まっている俺に、トコトコと近寄って顔を覗きこんでくる由梨香。
顔が近い。
その目を直視出来ずについ顔を反らす。
そういえば、この距離で思い出すのは壁ドンをしたときの事だ。
あれも俺が思ってたのとは意味が違った。
携帯で調べれば直ぐわかった。
女の子が「好きな人・カッコイイ人にされたい行為」の一つだったようだ。
しつけなんて大嘘じゃないか。
あの時由梨香が顔を真っ赤にしていた気持ちが、今の俺にはよく分かる。
「なんか誠が変。そっけなくない?」
「そんな事無い。先行くぞ」
もう、自分でも笑いそうになるくらい返事がそっけないとは分かってた。
俺が教室で好きだと伝えた後、由梨香が同じ様子だったな。
彼女はそんな俺を気にしながら、直ぐ横に並んだ。
「ねぇ、何で今離れたの?」
「夏だから、近いと熱いだろ」
これも前の由梨香と全く同じ行動。
今、俺は無意識に彼女から半歩離れてしまった。
言ったのは後付けの言い訳。
多分恥ずかしかったんだ。
それなのに、本当は近づきたいと思っている。
登下校で、由梨香が俺から物理的な距離をとった理由がやっとわかった。
恐らく今の俺の気持ちと同じだったんだろう。
一緒に居るのが照れくさくて、でも一緒にいたくて。
とても不思議な感覚だ。
何となく誤魔化したまま学校までの道を歩く。
今日は珍しく会話が無いが、頭を整理したい俺にはこれが丁度いい。
「ん、由梨香?」
「……」
しかし、学校まであと2分ほどの所で由梨香の足音が止まった。
俺が振り向いたときには、彼女は少し俯きかけていた。
「私、何かしたかな」
「え?」
ポツリとこぼれたそんな言葉。
声が小さく、聞き取るのがやっとだった。
「やっぱり誠、変だよ。なんか……私のこと、避けて無い?」
「あ、いや……避けてる訳ではないんだ」
俺の否定に上げた由梨香の顔は、不安の色に染まっていた。
それを見た俺の頭は一気に焦りを感じた。
俺が恥ずかしさで距離をとってしまったから、由梨香は自分が何かをしたのかと勘違いしてしまったんだ。
俺もやったこと。
その不安は分かる。
違うんだ。俺は。
「違うんだ。俺は……」
思った事が口からこぼれ、由梨香の瞳が俺を捉えた。
今度は頭が真っ白になり、何を言おうとしたかが分からなくなった。
「俺は……」
「って、誠、顔色悪いよ?大丈夫?」
言葉も出ず、しまいには体調を心配される始末。
しかし、そんな優しい言葉すら耳には入らず、俺はまったく動かない頭を必死に動かそうとしていた。
これ、どうやったら由梨香の不安を拭えるんだ?
今まで通り接すればいいのか?
だが、今まで通りってどんなだ。
距離を作らなければいいのか?
しかし、近づいても違和感が残るだろ。
じゃあ思っている事を言うか?
そうだ、それしかない。
なら、俺が思っている事を…。
俺が思っていることって……何だ?
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