9.再びの宣言


「さっきのって?」

「……ついさっき言っただろ。聞いたんだから手上げるなよ」


直接言ったらダメかと思い、曖昧に答える。

由梨香は首を傾げて少し考えるが、意味が分かったようでまた顔を赤く染めてそっぽを向いた。



「も、もうしないよ。……でも何でそんな事私に言うの?今まで言わなかったじゃん」


由梨香は顔を反らしたまま聞いてくる。

何でと言われても、最初は好きと言った時の反応を見たかっただけだ。


でも、何度も言うのは。



「由梨香がそれを言うと喜んでくれたから……だと思う」


自分でも理由は曖昧だ。

だがあの帰り道に照れながらも笑った由梨香の顔が忘れられなかった。

つい、また見たいと思ってしまったんだ。




「ば……バッカじゃないの?てか、その……私帰る!」

「おい、俺だけ置いてくなよ」



俺の言葉を聞き、何かを言い返そうとした由梨香はそのまま教室を飛び出してしまった。


由梨香、最近衝動的だな。

何が心を不安定にさせてるんだろう。


とりあえず、せっかくここまで残ったのだから一緒に帰ろうと、彼女の後を追いかける。

昇降口で靴を履きかえたところで、何とか追いつく事が出来た。



「おい、何で逃げるんだ」

「逃げるに決まってるでしょ!」


腕を掴んで引き留める。

彼女は先程と同じように振り解こうとしているが、今回はあまり力を入れていないようだ。


「決まってないだろ。俺は一緒に帰りたいんだが」

「ぅ……わ、分かったよ。分かったから手離して」


俺は逃げられないか警戒しながらも手を離す。

まぁ、これで逃げるようだったら流石に追いかけないが。


解放された由梨香は逃げるつもりは無いようで、俺と目を合わせないようにして少し前を歩き出した。

俺は斜め後ろを付いていく。



そのまま特に会話もせずに帰り道を歩く。

だが……なんだか普段より素っ気無いな。


元々俺と由梨香は多く会話をするようなタイプでは無い。

それに、ずっと2人一緒に歩いているんだ。

話したい話題なんて話しつくしている。


そういうこともあいまって、並んで歩くだけのことは多いのだが。

……流石に様子が変だ。



まぁ、心当たりはある。




「俺が好きって言ったからか?」

「……何、急に?」



声をかけると立ち止まって振り返る由梨香。

俺が言いたいことは伝わらなかったようで、首をかしげている。


まだ顔が赤いままだな。

照れてるのかとずっと思っていたが……もしかしたら違う感情なのか?



「俺が好きって言うと……由梨香は困るか?」

「そ、それは……困るよ。ある意味」



もう一つの質問に、少し曖昧に答える由梨香。

尻すぼみで聞き取り辛かったが、「困る」というのははっきりと聞き取れた。




「そうか。それなら本当にもう言わないから」

「え……ちょっと、どうしてそうなったの?」


由梨香は慌てるように聞いてくる。

そういえばこんなやり取りを前もしたな。


俺が教室で由梨香に「好き」って言った後のことだ。

彼女には「もう好きと言わない」と言ったはずなのに、俺はまた繰り返して彼女を困らせている。


学習しないな。

こういうのをみて、皆は俺を世間知らずだとか鈍感だとか言うのだろう。


「前もそうだったが、由梨香に好きって言うと……由梨香がそっけなくなる。俺はそれが嫌なんだ」

「そ、それは……だって……」


俺の回答に、由梨香は言いづらそうに口ごもる。

きっと同じことを思っていたのだろう。


好意を伝えて関係が悪くなるくらいなら、俺はこの気持ちを心の中だけで留める事にする。



「だからもう言わない。安心していいぞ」

「ま、待って。私、好きって言われるのが嫌なわけじゃないよ?」


俺が決意を伝えた所で、何故か由梨香が俺を説得しようとした。



何故だ?

その言葉が禁句では無い事も、由梨香が審判者では無い事も分かった。




だから、逆に分からなくなった。

何故、由梨香が困ることを俺にやらせようとするのか。

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