7.流行りの壁ドン


「と、とにかく。大澤さんにはもっと言ってあげろよ。俺達はお前の気持ち分かってるからもう言うな」



何故か少し焦っている田中だが……。

そうか、これは言ってはいけない言葉じゃなかったのか。


だとすれば、もっと言ってみるか。

彼女が喜んでくれるなら。



「わかった、ありがとう。お前達やっぱり好きだぞ」

「おぇ……言うなって言ったのに」

「いいから早く大澤さん迎えに行けよ」


俺は頷いて立ち上がる。思い立ったが吉日だ。

かばんを持って、教室を出ようとする。




「あ、誠まだいた。遅いからたまには来てみたよ」

「あぁ、それは悪かったな。こいつらと話してた」



そんな丁度いいタイミングで、由梨香が教室に入ってきた。

こいつらと言って鈴木と田中を指差すと、由梨香は困った顔をした。




「2人とも、また誠に変な事吹き込んだんじゃないよね?」

「またってなんだよ」

「俺達はいつも本当のことしか教えてないぞ」




博識な彼らはいつも俺に色んな情報を教えてくれる。

この間は何だったか。



壁ドンか。

巷で流行っている子どもへのしつけ方法らしい

しかし、体罰にならないのだろうか。



「怪しい……。誠、何の話してたか教えて?」

「ん?構わないが」



俺が公開処刑された日から、由梨香は鈴木と田中を警戒するようになった。


思い返せば、あの時「好き」って言ってしまったのは俺だったが、それをけしかけたのは田中だ。

つまりコイツが元凶だろう。



……うん?

そういえば、禁句でも何でもないのに何であの時叩かれたんだ?

まぁ、過ぎたことはいいか。



「由梨香。あの日に一度だけと言ったが、俺はもっと言うことにした」

「何?何の話?」


俺の脈絡の無い話に、由梨香は首を傾げて俺に聞き返してくる。

一応前置きのつもりだったのだが、伝わらなかったようなのでハッキリと言う。


「前に、お前のことを好きだって言った話だ」

「……!」



あの日の想いをもう一度伝える。

由梨香はその話を思い出したのか、段々と顔を赤くしていった。



「あれ以来、言えてなくて悪かったな。今も変わらず好きだから、心配しなくていいぞ?」

「っ……ま、またそういうこと言って……もっかい叩くよ!」



あまりにも恥ずかしかったのか、以前のように右手を振り上げる由梨香。

2度目という事で予測の出来ていた俺は、振り上げられた右手の手首をつかむ。

由梨香は一瞬驚くが、慌てて振りほどこうとする。



「危ないだろ。暴れるな」

「じゃあ離してっ……ッ!」



結構な力で抵抗してきたので、動きを抑えようと由梨香を壁際に追い詰める。

そのまま手首を教室の壁に押し付けたのだが……今背中打ったか?




「悪い。大丈夫か?」

「っ……か、顔近い……大丈夫だからっ」



その体勢のまま、由梨香の顔を下から覗き込んでみる。

痛がっているかと思ったのだが、彼女は驚いて顔を真っ赤にしているだけだった。

しかし、その顔はすぐに反らされた。




「あれ、壁ドンじゃね?」

「ちょっと違う気もするが、大体あってるな」



未だにイスに座って暢気に俺達のやり取りを見ている男二人。

これが壁ドン?

しつけじゃ無かったのか?




いや、違うな。

今回は分かったぞ。



由梨香にしつけておけ。って意味だな?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る