4.禁句の代償



「じゃあ俺からも質問いいか」

「ん、何だ?」


若干俺達から距離をとっている田中。

彼は恐る恐る手をあげているので聞き返してみる。



「誠、大澤のこと好きか?」


「へ?ちょ……何言ってんの?」

「由梨香の事?」



禁句を発したからか、今度は由梨香が狼狽える。

そして今度は教室も静まり返った。


ああ、このざわつきとかは禁句のせいだったのか。

すっきりした。



しかし、ここで迷うのは今の質問に答えるかどうかだ。


この静まりかえった教室では、言ってしまえば全員に声が聞こえるだろう。

そして、質問に答えるには「好き」という禁句を発しなければならない。




俺の推測では……この言葉を発することは良いこととされていない。

経験上、街中でも聞く言葉ではないからな。

誰も口にしないのには、それなりの理由があるはずだ。


しかし、先ほどと同じで聞かれたからには何かを答えなければ……。




「……」


「な、何よ。何で黙ってるの?早く好きじゃないって……言えば良いじゃん」



どうやら、無意識に彼女のことを見つめていたらしい。

それで恥ずかしくなったのか、サッと顔を反らす由梨香。



そして……好きじゃないと言え?

嘘ついたらダメだろ。

黙ってるのもおかしいが。



だとしたら選択肢は一つか……。


でもこれは……禁句じゃないのか?

何故言わせようとするんだろう。



「……しかたない。1度だけ言うぞ」

「い、言うの?何を……?」



少し考えた後で宣言すると、彼女は急に焦り出した。

早く言えと言ったのは誰だ。



まあいい。

恨むならこんな質問を投げた田中を恨んでくれ。





「俺は、由梨香が好きだ」


「「「おおーー!」」」




その言葉を口に出した瞬間、教室がどっと沸いた。


これは……。

まさか。




俺の勇気が認められたということか。


その証拠に、クラスメートからは「おめでとう」や「いいものを見れた」等、俺への祝福の言葉が聞こえた。



何故か達成感に満たされている。

この気持ちは……由梨香のおかげだ。





「ありがとう、由梨「バカーーーーーー!」」


バシーン




感謝の気持ちを伝えようと、由梨香の名前を呼び終わる前。

耳を劈く叫び声と、頬への痛みが同時に訪れる。



あまりの衝撃に尻餅をつく俺の横を、真っ赤な顔をした由梨香は走って行った。

教室は再び静まり返っている。



……なんだ?何が起きた?

理解が追いつかない。

というか、痛い。




「なぁ、これどういうことだ」

「とりあえず、お前が悪い」

「ああ、お前が悪い」


理由を教えてくれない友人達は、立ったまま俺をただ見下ろした。



……なるほど。

俺は確かに試されていたらしい。


この罠に引っかからないのかを。



薄々思っていた。

この禁句を言い続ける事で、何かしらペナルティがあるんじゃないかと。


まぁ……まさかペナルティを科す審判者が由梨香だったとは思いもしなかったが。


しかもこのペナルティは痛みだけでは無いらしい。


結局、この日から追加で3日間.

今度は由梨香が口を利いてくれなくなってしまった。

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