3.好きの解釈
翌日。
由梨香にはメールで昨日のことを謝ったら、「条件付きで許してあげる」とのことだった。
ついでに、友人2人の説得も引き受けてくれるらしい。
その条件が日曜日の買い物に付き合うだけとは、逆に申し訳なくなってしまうな。
彼女は昔から本当に優しい。
世間知らずだとよく言われる俺をいつもフォローしてくれる。
そんな感謝も込めて、寝る前に「好きなのは本当だ」と送った所、一時間後に「バカ」とだけ返ってきた。
その日の結論としては、とりあえず「好き」と言うのは禁句らしいということ。
まだ分母は極わずかだが、言った相手の100%に避けられている現状だ。
少なくとも、避けられる意味が分かるまでは使うのを控えよう。
「おはよう」
「あ、来た来た。誠ー」
教室に入って誰にでも無く挨拶をすれば、隣のクラスのはずの由梨香が鈴木、田中と話しをしていた。
とりあえず、由梨香の方はいつも通りみたいで一安心だ。
彼女は説得が上手くいったのか、少し嬉しそうに俺を呼ぶ。
「で、さっきの話って本当なのか」
「本当だよ。試してみたら?」
鈴木は由梨香に質問を投げる。
それから、由梨香の即答を聞くと今度は俺の目を真っ直ぐ見つめてきた。
何やら警戒している目だが……まだ怒ってるのか?
もう4日目だし、いい加減仲直りしたいところだ。
「誠。俺の事……好きか?」
「お前、何を言ってるんだ?」
何を言い出すかと思えば、3日前に俺が言った事を再確認された。
鈴木の発言に、田中の顔は青ざめ、ヨロヨロと後ろに数歩下がった。
田中のその気持ちは今なら理解出来る。
禁句を発したから動揺してるんだな。
危険な言葉だ。
しかし、言われたからには答えるのが礼儀だろう。
あの日の繰り返しにならなければいいが。
「ああ、好きだ。2人ともだぞ」
「一瞬も迷わなかったな。開き直ったのか?」
確かにあの日は少し戸惑った。
好きと直接言うのは恥ずかしい。
というか、自分の気持ちを正直に語るのは気恥ずかしいだろ。
まぁ、1度伝えたから2度目は直ぐに口から出ただけだ。
「本気だから迷う事は無いだろ」
「それだけ真っ直ぐ言われると……ちょっと照れるな」
「ば、バラが見える…」
田中がよくわからないことを言ったので周りをキョロキョロと見てみる。
しかしバラなんてどこにも見当たらない。
禁句は幻覚でも見せるのか?
どうでもいいが、今日の教室は朝からざわついてるな。
昨日面白いテレビでもやっていたのだろうか。
「ぷふっ……だ、だから言ったでしょ?」
「たしかに、これは他意が無さそうだな」
そんな俺の様子を見て、由梨香はまた笑う。
……俺の顔を見て笑われると、俺が何かしたみたいに思われるから止めてほしい。
「まぁ、そもそも色恋沙汰に鋭い大澤さんが言うんだから間違いないか」
「へへ、そうそう。……昨日はちょっと驚いちゃったけど……」
由梨香は何かを褒められたみたいで無い胸を張っている。
これまたどうでも良いが、田中の巨乳フェチと言う病気は症状によってランク付けされているらしい。
「フェイズC以上」らしい田中の発作が起きないという事は、由梨香は対象じゃないという事か。
「分かった。悪かったな誠、誤解してたみたいだ」
「よく分からないが、誤解が解けたならいい」
由梨香の協力のおかげで、とりあえず鈴木は理解してくれた。
何をどう説明したのかは、後で由梨香にでも聞けばいいか。
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