未来決定権

アイq

第1話

 僕らの選んだ総理は言った。


 お前ら戦争に行けって。


 僕らの選んだ総理は言っていた。日本を変えるって。必ず経済を活性化させてみせるって。


 公約や具体的な政策をみてみんな言った。彼なら変えられる。俺たちは楽になるって。口を揃えて言った。


 その選挙である党が大勝した。すべての政策が彼らの思い通りになった。参議院なんて機能してない。


 それでもみんな言っていた。金がたくさん手に入ったって。みんな金しか見えてない。


 そのうち議会が怪しい動きを見せた。九条が変わって戦争が始まるという噂だった。


 何人かの専門家は声をあげた。このままでは取り返しのつかないことになるって。


 それでもみんな言った。こんなに暮らしが楽になったのになに罰当たりなこと言ってんだって。みんながその人たちを責めた。やがて誰も反対しなくなった。


 そしてある日。日本は戦争のできる国になった。アメリカ軍がいなくなり、日本中で核兵器が製造された。


 みんな言った。一体どうしたんだって。


 でももう遅かった。内閣が巨大な権力をもち、教科書に載っていた三権分立は壊れた。


 誰も総理には逆らえない。多数決主義の落とし穴をみんなが放置してきた結果だ。


 そこで目が覚めた。すべて夢だった。全部悪い夢だった。


 外に出て驚いた。夢で見た顔がそこら中にポスターとして貼ってある。テレビの支持率も異常だった。


 夢を思い出しながら公約を見れば、確かに怪しいところがある。


 僕は声をあげた。この政党を選べば戦争が始まるって。


 みんな笑った。


「憲法が守ってくれる」


 僕は泣いた。


 みんな他人頼りなんだ。何も自分じゃ考えてない。こんなやつらみんな死んでしまえばいい。考えることを放棄したやつらなんか人間じゃない。憲法なんか頼ってるやつは人間じゃない。


 だから僕は投票する。涙を拭ったこの手で投票する。無能な人間を殺すために。


 僕が戦争で死んだって構わない。僕はそんな猿たちなんかと共に未来を生きたくなんかない。


 みんな泣くかな。僕みたいに未来を愁へて泣くかな。


 いや、きっとこう言って泣くだろう。


『なんで俺が』戦争に行かなきゃならないんだって。


 僕はきっと猿たちを嗤うだろう。


 自業自得だって。


 僕は投票する。そんな未来が欲しくて。


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