マクラ売りの少女

有森大樹

最終回

「マクラ買いませんかー?


マクラ買ってください。」




街角で一人の少女が肩を震わせながら待ちゆく男性に営業をしていました。




薄っぺらな服とショールは頼りなく、冷たい風が少女から体温を奪っていきます。


さらけ出した足は冷え切って氷のようでした。




でも一人も立ち止まってくれることはありませんでした。




「お願い、一つでもいいんです。誰かマクラを買ってください。」




今日はまだ一つも売れていません。




場所を変えようと少女が歩き始めたときでした。


少女の眼の前を一台の馬車(ポルシェ)が、走りぬけました。




危ないっ!!




少女はあわててよけようとして雪の上に転んでしまいました。


雪は少女の衣装を濡らします。お古の衣装で少女には少しキツイものでしたが、少女にとってはたった一着の衣装でした。雪は少女の体温でとけて衣装に染み込んでいく。


濡れた衣装はぴったりと体に張り付き、もとからきつい衣装が下着の色までをも浮き上がらせていました。






冷たい雪は降り続け、少女の体はどんどん冷たくなっていきます。


しばらく行くとどこからか肉が焼けるにおいがしてきました。




「ああ、すごい。……ほしくなっちゃったなあー。」




でも少女は帰ることはできません。


まくらが一つも売れないまま帰っても、社長サンは決してなかにいれてくれません。


それどころか、


「この役立たず!」


と、ひどく鞭ぶたれるのです。


少女は鞭が苦手でした。鞭でぶたれたあとは椅子に座ることもできません。


それに、場合によっては鞭だけでなくもっとひどいお仕置きをされることもあります。この間なんて、鞭でぶたれたあとに柱に縛り付けられ半日以上放置されたのです。もちろんトイレにも行かせてもらえません。少女は結局、お漏らしをしてしまったのでした





少女は寒さを避けるために、建物と建物の間にはいってうずくまりました。


それでも、わずかな風がしのげるばかりで体温はうばわれていきます。


「そうだ、枕をつかって温まろう。」


そういって、枕を一つ取り出します。


ポスンッ。


枕は乾いていて、とてもフカフカしていました。


少女はいつの間にか、あたたかな部屋の中にいるような気がします。


「なんて、あたたかなんだろう。……ああ、いいきもち。」


しょうじょがベッドに向かおうとした途端、枕は涙で濡れて、ベッドはかき消すようになくなっていました。


しょじょはまた、あたらしい枕を取り出してみます。


すると豪華なパーティー会場にいるような気がします。


テーブルの上は清潔で料理を置かれる準備は万端でした。真っ白なテーブルクロスに磨かれた銀食器、美しいグラスに注がれた新鮮な水。


人々の談笑と音楽が混ざり合い心地のよい音となって耳に届きます。


湯気をたてたおいしそうなステーキがしょうじょへ近づいてきます。


「うわっ、おいしそう。」


その時、枕はぐっしょりと濡れステーキもレストランもあっという間に消えてしまいました。


しょじょはがっかりして、もう一つ枕をとりだしました。


すると、どうでしょう。


しょじょは美しいホテルの部屋にいました。


クラシカルな家具に、天蓋付きのベッド、天井には美しいシャンデリアが輝いています。


シャンデリアには宝石がちりばめられ、部屋の中はめがくらむほどまばゆく照らされていました。


しょじょが手をのばすと、シャンデリアはふわっとなくなってしまいました。


また、濡れてしまったのです。


でも、シャンデリアの宝石だけは消えずにそっと空高く昇っていきました。


宝石たちは小さな星になったのでした。


しょうじょは星に見とれてしばらく空から目を離すことができませんでした。


すると、星の一つが一瞬月よりも明るく輝き、そのあとそこはぽっかりと暗くなった。


「あっ、また誰かが……。」


しょじょは、昔あたたかなベッドのなかで聞いた言葉を思い出しました


『一つの星が消えるとき、一つの宝石が星になることができるんだよ』




「ああ、私も星になりたいなー。」


しょじょはまた、枕を取り出しました。


しょじょは喝采のなかスポットライトと称賛を浴びていました。


あしもとには赤い絨毯が広がりその先にはスピーチ用のステージがある。


「ああ、これが星(スター)の輝き!濡れるとおしまいなんて、イヤ!……私の居場所はここだけ。」


しょじょはそう言いながら、残っている枕をすべて取り出しました。


男たちが熱い視線と拍手をしょじょに送ります。


ちょっとしたしわやシミなどをすべて消し去ってくれるくらいの強烈なライトがしょじょを照らします。


「ああ、体が熱い!スターってとっても素敵!」


しょじょがあるきはじめようとすると、青年が手を差し出してくれます。


どうやらエスコートをしてくれるようです。


よく見ると青年はなかなかのイケメンであり、姿勢と身形と自信にあふれた表情からしっかりとした人だとわかります。


「この人になら任せてもいいかも。」


しょじょは男性の手にそっと手を重ねます。


気づくとしょうじょの手首には銀とエメラルドでできた細工の凝った腕輪がはめられています。


首元をちらりとみると腕輪とおそろいのものでしょじょの首も飾られています。


しょじょは食い入るような熱い視線を浴びながら、ゆっくりと目をとじ賞賛を味わったのでした。








「痛いかい?」


「ええ、痛いわ」


しょじょは期待をして青年を見つめる。


銀とエメラルドで細工された首輪からは鎖が伸びている。


青年はそれを聞くとさらに残忍な表情をし、さっきより乱暴に鎖を引っ張る。


「苦しいかい?」


「ううっ」


今度はしょじょの腕輪から鎖が伸びている。


しょじょは腕輪から伸びた鎖で、つま先立ちになって足の先がつくかつかないくらいの高さに吊り下げられていた。


しょじょは苦しくて答えることもできない。


手首の痛みもひどいが、肩の関節が外れてしまったのではないかと思うくらいミシミシといっている。


懸命に足を地面につけるように伸ばすが、指先が地面をかするばかりである。


痛いっ。


でも、しょじょの太ももには冷たいものが伝わっていく。


そう、しょじょはこんな状態でも興奮して濡れていたのであった。


濡れやすい体質はここに来てからも変わらない。


股間にはすでに卵型のローターが何個か埋め込まれてあやしく震えている。


青年がしょじょを羽でくすぐり始める。


しょじょはくすぐったさと痛みを感じていると、おなかの中の卵がさらに激しく震えた。


しょじょはまた、きょうもイクのであった。




「かわいそうに。アイドル(スター)になりたかったんだってね。」


「いや、こんど彼女DVDを出すらしいですよ。」


「『世界中にこの声を届けるのが夢です!』っていう彼女の夢は案外かなってるよ。」


「そりゃあ、よかった。安心して楽しめる。」


「いや、でもいやいやここまで堕ちたっていうほうが興奮するだろ。」




『正真正銘、処女の絶頂!枕営業の果てにDVD発売しました☆』


はなかなかヒットしたのであった。



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マクラ売りの少女 有森大樹 @D_arimori

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