第2話
振り返ると、うずくまる部下の隣に敵軍の男が立っていた。瓦礫の下に隠れていたのか。男はナイフを構え、僕に向かって突進してくる。疾い。
状況を認識しようともたつく脳を置き去りに、僕の右腕は自動的に腰のグロックを抜く。首筋に向かって奔るナイフ。銃声。僕を睨みつけたまま、男がゆっくりと地面に倒れた。
発砲した姿勢のまましばらく僕は動けずにいた。部下たちが集まってくる。
「大丈夫ですか」
「あ、ああ。怪我はないよ。瓦礫の下に隠れていたみたいだ」
「他に残っていないか、捜索します」
「頼む」
上の空で返事をしながら、僕はさっきの男の事を考える。倒れる刹那、至近距離で目が合った。奴らは人間ではないから、その瞳に感情は読みとれない。怒りに見えるそれも、人間を摸した上辺のはずだ。それはいい。それよりも、僕は男の目に映ったものが忘れられない。そこに映っていたのは銃を構え、見慣れた制服に身を包んだ男。僕の勘違いでなければ、それは。男に対峙していた者、つまり、僕は。
人間には見えなかった。
僕達はたくさんの敵を殺した。それは、連中が人間ではないからだ。僕達は人間のはずだ。けれど、僕は何を根拠に人間と人間でないものを見分けていたのだろう。一見人間に見える人間ならざるものが、人間でないと言える理由はなんだったのだろう。人間が人間であると言える理由はなんだったのだろう。僕は人間なのだろうか。
自問自答を繰り返しながら、手の中の拳銃を見つめる。
衝撃の後、列車は止まった。暫くしてアナウンスが流れる。なんとなく想像はつくが。
「当列車は事故のため一時停止いたしました。お急ぎのお客様には大変ご迷惑をおかけ致しますが、現在警察の現場検証が行われており、運行再開の目途は…」
ほらな。突然の出来事に、車内は騒然としていた。事故の影響を受けた事はあっても、乗っている当の列車が事故をおこしたのは初めてだ。当分動かないらしい。野次馬に混ざろうかと一瞬思ったが、さすがに趣味が悪いのでやめた。しかし、これでは帰宅が大幅に遅れてしまう。どうしてくれるのだ。
駅のホームから永遠の自由へとダイブした彼もしくは彼女のことを思う。列車に飛び込むという手段は全く持って頂けないが、彼もしくは彼女をそこまで駆り立てたのは何だったのか。今朝のピーマンの肉詰めが思い出される。知恵ある人間とは思えない姿の俺達。意味の無い毎日。今頃本物のひき肉になってしまったであろう彼もしくは彼女は、その事に気付いていたのだろうか。自分が人間でないということに。その気付きが、彼もしくは彼女の背中を押したのだろうか。
答える口はもう無いだろうが、もしその答えを教えてくれるなら、とりあえず今日の帰りが遅れた事については、まあ許してやらなくもない。
人間とニンゲン 目からピザ太郎 @__irgendwie
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