第10話 動き出す時 過去の亡霊1

エリザベスが依頼に同行する理由を説明するが、それは至ってシンプルな物であった。

実は、これと似たような事件は他にも起きていて委員会でも調査をしているそうだった。

しかし行方不明者の足取りはようとして知れず、そこに来てこの依頼である。


「まあ、これがその事件と関連があるのかは分かりませんですけどね」

と口では言うが、なにか確信めいたものを感じている節があった。

そこでふと、イスナは閃いた。


「ねえ? この依頼を解決して、さらにその事件も解決したら……」

そこまで言ったイスナに分かってるとばかりにエリザベスは頷いた。


「出ますわよ。 金一封」


「おしゃーー! やる気出て来た」

そう言って喜ぶイスナを見て微笑むエリザベスに、この子の扱いをよく心得ていると感心するミズ・モンローであった。


改めて依頼をよく調べてみる。

依頼主は彼女の父親。

3日前くらいから住んでいた家からも学校からも姿が消え、偶然知り合いが見つけた場所。 それが『楽園』であったと書いてある。

少女の名前はトア トア・アルカ。

写真ではどこか感情を感じさせないように見えるが、とても整った顔をしていて芸能人、子役と言っても信じそうではあった。

青く見えるほどの鮮やかな銀髪は眉の上で切りそろえられており、それがさらに彼女を人形じみた印象にしていた。


「あら、なかなか可愛い子ですわね」

そう言うエリザベスを見てイスナは思わず。


「えっ!? やっぱそっちの趣味が『お黙りなさい』ムグッ」


言い掛けたイスナの口は突然、不自然に閉じられた。

それを見たミズ・モンローは感心したようにエリザベスを褒める。


「相変わらず凄い能力ねえ~リズの『教育的指導』は~」


そうこれが、エリザベスのスペシャルズとしての力、『教育的指導』。


ひと頃、日本など東方の国などでは『言霊ことだま』とも呼ばれた力である。

その能力は強制的に一つの行動を縛るという物である。

命令を実行させる『洗脳』タイプではないため受動的な力であるが、使いどころを誤らなければかなり凶悪な能力だろう。

とはいえ他にも問題はあるのだが。


「いきなり力使うなっ!」

その凶悪な力を振るわれたイスナは怒りで身体を震わせている。

しかしエリザベスは鋭い眼光でイスナを黙らせた。


「……なにか言う事は?」

「すいませんっした!」

土下座しそうな勢いで謝るイスナであった。









どう行動するか?という事で、まずは依頼者に会って聞き込みが基本だろうと依頼書にあった住所まで向かう事にした。

場所はB地区にある中流階級が多く住まう地域で、マンションに住んでいるという事だった。

イスナ達はバスで、どちらも車を持っていない為、B地区まで乗り継いでいった。



そこはなんの変哲もない住宅街の中にあるごく普通のマンションだった。

ただし、マンションの一室からうっすらと煙が出ていてマンション自体が警察で封鎖されてなければ、だが。

イスナ達は顔を見合わせ一つ頷き合うとマンションの入口まで歩を進める。


「ここは立ち入り禁止だ! 離れて離れて」

さっきからの野次馬の対応に疲れ果てていた警官はつっけんどんな態度で近づいてきた二人に最初対応したが、エリザベスを見て鼻の下を伸ばし、次いでエリザベスの提示した身分証を見て顔を青ざめさせた。


「通ってもよろしいかしら?」

「こ、これは委員会のっ!? ど、どうぞお通りください!」

しゃちほこばって敬礼する警官にエリザベスはごくろうさまといって通り過ぎた。

オスナは黙ってそれに付いていく。

二人はそのままエレベーターに乗り込み目的の階のボタンを押す。


「608だから6階か……」

イスナはそう言うとエレベーターの壁に寄りかかる。

エレベーターはすぐにも目的の階に到着するとその扉を開いた。


外で見た時に位置から想像はしていたが。

エレベーターを降り6階へ着いた二人は、想像した事が正しかった事を知る。

6階には警官が大勢おり、608つまり依頼主の部屋に出入りしていた。


「なんかきな臭さがマシマシだねぇ」

イスナは早くもこの依頼を受けたことを後悔し始めるのだった。







ナガレ マサツグは不機嫌だった。

今日は、6歳になる娘の誕生日だった。 ナガレは今年で51になるが少々遅くになって生まれた子で妻共々大事に育てていきたいと常々言っていた。

今日の誕生日の為に無理を言って、小言を言ってくる年下の係長を説き伏せ休暇をもぎ取り、家族で一緒に買い物に出かけようとしていたのに……


くそっ! 犯人め見つけたらただじゃおかんっ!


「ナガレ警部!」

今だ煙る室内で口元をハンカチで抑えながら辺りを睨み付けるようにしているナガレに一人の警官が寄ってくる。


「なんだ?」

警官は、不機嫌さを隠そうともしないナガレに怯みつつ要件を伝える。


「あん? 委員会? 委員会がなんでまた……」

ナガレは突然の珍客に戸惑った。

だが取りあえずは会わねば話になるまいと、頭を掻きながらその客の待つ玄関口まで戻る。



ナガレが見た物は、凄まじいほどの美女と、まあ可愛いんじゃないかな?という感じの少女だった。

そして美女の方は兎も角、少女の方はセーラー服を着ていて場違い感が半端なかった。


委員会の者という話だったはずだが……

ナガレは何だこいつら?といった感じで胡乱げな視線を送るが、二人共気にした様子もなく自己紹介してきた。


「初めまして。 わたくしは、封印都市管理委員会、対幻獣処理部隊『スペシャルズ』所属のエリザベス・ドレス。でこっちが」

「おまけの委員会公認狩人の喰嚙くいがみイスナでやんす」


ナガレはその名前を聞いて、内心で呪いの言葉を吐き捨てた。


「そのスペシャルズと黒手こくしゅがなんの用だ?」


お? 私ってゆうめいじーん?などとうそぶくイスナを尻目にエリザベスはナガレの質問に答えた。


「スペシャルズは対幻獣が基本ですが、その他の事件に関しても、必要と判断すれば超法規的な権限を持って事件に関与出来ることはご存知のはずですわよね?」


そう言われたナガレは今度こそ苦虫を噛み潰したような表情を見せる。

ご存じもなにもそのせいで何度も調査がかき回された事があったのだ。

幸いナガレはそのような目にあったことはなかったのだが。


どうやら今回は自分の番らしい。

なまじスペシャルズが有能な分だけキャリア組が現場に出るよりたちが悪いと、同僚からよく愚痴られていたのだ。


それに……

ナガレはヘラヘラと笑う、と言っても目は笑ってないため凄まじい違和感があるが、少女を見る。


黒手こくしゅ、その名を知らぬ者は警察内にはいないだろう。


幻獣狩人であり、裏社会でも有名人。

彼女と揉めて、病院送りになった警官は数多い。

そのくせ委員会の横槍で逮捕拘束もままならない。



ミハル、すまんお父さん誕生会には間に合いそうにないよ……

ナガレはそっと愛娘に謝るのだった。








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【ウィッチドッグ】 ~封印都市管理委員会公認魔女~ 凪崎凪 @mofuon

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