第9話 幻獣神秘教団の『楽園』

面倒事はゴメンだと寄り道する事なく、ああさらば我が愛しのゴハン達よ。と G&Mガーリー&マニッシュ銃砲店へと直行した。


違法区域に入る前に一悶着あるかと思ったが杞憂だった。

イスナは、隠し入口の番人共の鼻の下を伸ばしただらしない顔面に、想像の拳を叩き込みながら銃砲店の入口を潜る。


「いらっしゃ~い♪」

無駄に鍛え上げられ引き締まった身体をクネクネさせながらこの店のオーナー、ミズ・モンローが奥から出て来た。


このミズ・モンロー、ちゃんとしていれば、それこそ仕立てのいいスーツなどを着てビシッと立っていればかなりの色男なのだが、なにを間違えたのかマニッシュな、間違いなく女性服をビシッと着こなしバシッと化粧を施している。


そのミスタ、いやミズ・モンローは入って来たイスナを見るとニッコリ微笑み礼を言ってくる。


「あら=ん! イスナちゃんこの前はありがとねぇ~ん! 助かっちゃったわぁ~」

と、そこで初めてイスナの後ろの人物に目が行ったようだ。

ミズ・モンローの眉がピクリと動き、その表情が消えた。


あ、マズイかも。

ミズ・モンローは委員会と揉め事を起こした事はなかったはずだが、そうでなければ仲介屋などやってはいないのだが。これは個人的になにかあるのか?

イスナは感じた不穏な空気にしながら成り行きを見守った。


そして仏頂面になっていたミズ・モンローがその口を開いた。


「やだ~ん。 リズじゃなぁ~い! ご無沙汰じゃないのよぉ~!!」

満面の笑顔になってエリザベスに抱き着いた。


「先輩お久しぶりですわ! 相変わらずお美しいですわね」


知り合いだった。 それもかなりの仲の良さそうな。

それに先輩?


「あらごめんねぇ~二人で騒いじゃって! 実はこのリズは元同僚なのよぅ~」

ミズ・モンローがそう言って、エリザベスを離しながら腰をくねらせ説明してくれる。

同僚ってことはミズ・モンローは元スペシャルズ?

イスナはミズ・モンローの過去話に目を白黒させる。


なにかしら委員会と繋がりがあるとは思っていたがスペシャルズとは……

イスナがここに来る事は実は仕組まれていたのか? 

警戒心をあらわにしたイスナを見てミズ・モンローは軽く手を振って否定し出した。


「いやねぇ~大丈夫よぅ。 イスナちゃんと会ったのは辞めた後なんだし」

「ついでに言いますと」

その後をエリザベスが続けた。

例の任務・・・・は先輩が辞めた後に出たものですわ」


現状ではその言葉を信じるしかない。 どうせ彼……いや彼女に頼らないと生活がままならないのだから。



「わかった。 じゃあ…… お仕事ください」












「あらん? またお金無いの? この前のマンティコアの分結構な金額だったと思うけど~?」


そのイスナの言葉にミズ・モンローは怪訝な表情をする。

確かに本来チームに支払われる報酬額をイスナ一人の総取りだったのだ。

少しでもイシバシ達に回すという考えをイスナが持つはずもなし。


しかし、今のイスナは素寒貧すかんぴん一歩手前であった。

まあ地獄の鬼より恐ろしい女性大家に巻き上げられたのだが。


「お仕事ねぇ~? なにかあったかしらん?」

ちょっと見てくるわねとミズ・モンローは奥に引っ込む。


「それにしてもまさか先輩とこんな所で再会するなんて」

エリザベスは感慨深げにそう漏らした。


「ミズとは親しかったん?」

それを見て好奇心が刺激されそう尋ねた。


「そうですわね。 話せば長くなり「あ、長いならいいや」……」

イスナは途中でぶった切った。


「……相変わらずですわね。 『教育的指導』が必要かしら?」

エリザベスが青筋立てて詰め寄ってくる。

美人なだけにすごい迫力であった。


「うおっ!? すいませんすいません! でも話はまた今度」

それでもシスナは平常運転であった。


「はあっ まあいいですわ」

それを見て追及を諦めたエリザベスはため息を吐いた。


二人がそうやって漫才をしていると、ようやく奥からミズ・モンローが出て来た。


「う~んあまり大した物がないわねぇ~。 あらかた仕事振り分けたばかりだったのよぅ~」

そう言ってミズ・モンローはイスナに謝った。

そして一つあるにはあるんだけど、と依頼書を見せる。


どれどれとその依頼書を覗き見るイスナと、ついでにエリザベス。


「人探し?」

それを見たイスナが怪訝な声を上げる。

それも探し人は……


「何時からここは迷子の保護なんて仕事するようになったん?」

イスナは呆れた声を上げる。

依頼書に乗っていた探し人の写真は、どう見ても小学生位の少女だった。


「警察に頼みんさいよ。こんなの」

そう言って依頼書をつまんでヒラヒラさせる。


「まあそうなんだけどねぇ~。 場所が問題なのよ」

場所と言われ改めて依頼書を見直す。

少女がいるであろうとされる場所。 それは。


「げ! D地区の『楽園』」



『楽園』 それは『幻獣神秘教』の信徒が暮らす区域である。

それだけなら別に構わないだろう。

しかし彼らの教義は幻獣による世界の浄化。

人が幻獣になることを進化と呼ぶ彼らにとって、幻獣を処理する委員会はまさに不倶戴天の敵である。

そこで、『幻獣落ち』した者を委員会から匿い保護している場所が『楽園』である。

つまり『楽園』には幻獣が生活している巣であるとも言える。


「なに? この子この歳で信者なの?」

そうだとすれば世も末である。


「う~んそうでもないみたいなのよねぇ~」

そう言ってミズ・モンローはイスナから取り返した書類を見直す。


「どうも誘拐ぽいのよね~」

もしそうだとすれば由々しき事態ではないだろうか? 

そしてやはり警察の管轄のような気もするが。


「やっぱ警察いけ、警察」


ミズ・モンローじは、そう投げやりに言うイスナにため息を吐いて頷く。


「そうねぇ~報酬が500万ニューエンだったからもったいないけど。 警察に」

そう言い掛けたモンローの手からイスナは書類を奪い取ると高々と宣言した!


「おのれ! 卑劣な誘拐犯め!! このイスナちゃんがか弱き少女を守るため一肌脱ごうではないかっ!」


「つまり意訳するとお金が欲しいですわね?」

エリザベスはイスナをジト目で睨みながらイスナの心の内を言い当てた。


500万ニューエン。 先のマンティコアの報酬よりは少ないが結構な額であった。

「馬鹿な! 私の心を読むとはっ! さてはアンタ、エスパー!?」


「逆に言えば~なぜ分からないと思ったのか聞きたい所ねぇ~ん」


ミズ・モンローも二人のやり取りに苦笑するしかない。


エリザベスはそこでイスナに提案する。

「では私もご一緒しますわね?」


「なんで!?」

いきなりの脈絡がない発言にイスナは目を白黒させる。 

なにがでは、なのか?


イスナはエリザベスを睨み付けるが、ニコニコとしているだけで怯んだ様子もない。


あ、これはダメだ。 話聞かないパターンだわ。

イスナはそう考えがっくりと肩を落とすのだった。



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