八時間目 公園ダンジョン@デュオ

「値段が付けられないっ!?」


 放課後。

 駆け足で黄龍広場に向かい換金所に飛び込んだ俺は、店主であるおっちゃんから衝撃の言葉を放たれた。


「あぁ。何せ殆ど流通してねぇ代物だから、相場ってもんがなくてな。過去の取引情報とかも調べてみたんだが、どうにも価格がまちまちでな。現状だとはっきりとした金額が出せないんだ」


 何たることだ…

 まさかレア過ぎて売れないだなんて…


 俺は王冠の換金分を振り込むようにだけ頼み、鎌をアイテム袋に仕舞い換金所を後にした。


「はぁ…まじかぁ…」


 扉の前で肩を落とす。

 これを売ったお金で装備を新調したり、ラノベや漫画、ゲームを大人買いしようとしたのだが、計画を縮小しなければならなくなった。


剣兄けんにい…どうしたの…?」


 そんな風に落ち込んでいると、不意に横から声を掛けられる。


「あぁ、刀香か。こんなところで奇遇だな」


 声のぬしは妹だった。

 もう家に帰っているものだと思っていたが、どうやら寄り道の最中らしい。


「もしかして…鎌、売れなかったの…?」

「おぉ…鋭いな、妹よ。その通りだ」


 昨晩、一家団欒の際に話していたことで悟ったのか、あっさりと図星を突いてきた。


「…剣兄、時間ある…?」

「え?あぁ、鑑定も終わったし、暇っちゃ暇だけど…」

「ん…じゃあ、クエスト手伝って…」

「クエスト?なんか欲しいもんでもあるのか?」

「うん…まあ、そんなとこ…」


 そう言って、刀香は歩き出す。

 俺は急ぎ横に並び、妹に付いてゆく。


「手でも繋ぐか?」

「…今はいい」


 冗談半分で聞いてみたが、これまた意外な答えが返ってきた。

 俺は刀香と他愛もない会話をしながら、目的地に徒歩かちで向かった。




「――で、ここなのか?」

「うん、ここ…」


 俺達が辿り着いたのは、何の変哲もない公園だった。

 住宅街の真ん中に位置しているが、少し時間が遅いせいか子供の姿は見受けられない。

 刀香もスマホのクエスト管理アプリを開いて確認しているが、やはりこの公園で合っているようだ。


「それで、クエストって何なんだ?」

竃馬かまどうまの討伐…」

「……はい?」

「竃馬の討伐…」


 竃馬。

 バッタ目カマドウマ科に分類される昆虫の一種。

 その俗称は、便所コオロギ。

 恐らくそれらは、公園に併設されている公衆トイレに巣食っているのだろう。


「もしかしなくても、害虫駆除?」

「これが一番、わりが良かった…」

「そ、そうか…」


 もしかして「体でも動かして気を紛らわせてね、お兄ちゃん!」的な感じで慰めてくれているのかもと思ったのだが、それにしても虫退治とは中々骨が折れそうだな…

 俺は気が進まないながらも、刀香に手渡されたマスクと保護メガネ、手袋を装着し、殺虫剤をデュアルで装備する。


「効率化を図る為に…二人一緒に行動する…」

「あいよ。ちゃちゃっと済ませようぜ」


 俺達は揃って、最初に男性用トイレへと進入した。




 ――ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン――


「いやいやいやいや、多くないですか、マイシスター!!?」

「文句言わないで…る…」


 そう言いながらも、刀香もあまりの数に気圧されているようだ。


 建設当時は、白を基調とした清潔感溢れるトイレであっただろうその場所は、床に壁に天井に、茶褐色の絨毯、壁紙の如く敷き詰められた竈馬が跋扈していた。

 足の踏み場もない、いや、踏んだら相当数駆除できるんだろうけど、そんなことしたら精神的にヤバいって言うか、もう限界超えてんじゃないだろうかというか、普通こんなにいます??


 そう思考を巡らせていると、我が妹は果敢にもその集団にスプレーを吹き掛けた。


 ――ピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョンピョン――


「ひゃぁっ!」


 殺虫剤を掛けられ命の危機を感じたのか、さらに暴れ始める竈馬達。

 それに驚いたのか、可愛らしい悲鳴を上げ俺に抱き着き震え出す刀香。


「にぃにぃ~……」


 涙声で俺を呼ぶ刀香。

 俺の中のお兄ちゃんりょくが高まるのを感じる…!


「大丈夫だ、刀香。お兄ちゃんに任せとけ…!」


 俺は刀香を後ろへと下がらせると、両手の殺虫スプレーを構え直す。


「妹を泣かせた罪は…高く付くぞっ!」


 殲滅、蹂躙、鏖殺おうさつ――

 可愛い妹を泣かせた奴を根絶やしにせんと、俺はひたすらに殺虫剤を吹き付けた。

 一匹、十匹、百匹――

 犠牲者は唯々その数を増やし、窓から月の光が射す頃には死屍累々であった。


「はぁ…はぁ…はぁ…」


 額に玉のような汗をにじませながら、俺は大きく息を吐く。

 周囲には、ひっくり返り足をひくつかせて絶命している竈馬達がいた。


「にぃに…すごい…」

「お、お兄ちゃんも、ぜぇ、たまには、はぁ、やるだろ…?」

「感心した…」


 先程までの泣きそうな顔はどこへやら、いつものダウナーな感じに戻っている。

 しかし、「にぃに」呼びが戻っていない辺り、まだ不安は拭えていないのかもしれない。


「にしても、これで半分かと思うと、正直しんどいな…」

「為せば成る…」

「成らぬと捨つる人の儚さってか」

「やはり、シンゲン…」


 偉大な先人の言葉で活を入れ、俺達は女性用トイレへと向かう。

 しかし――


「――何もいない…だと…?」


 男性用トイレには無数にいた竈馬が、女性用トイレには人っ子一人、もとい虫っ子一匹いないのだ。


「なにか、おかしい…」

「あぁ、それには同意だ妹よ」


 男性用にはあれだけいて、女性用には全くいないというのはどう考えてもおかしい。

 あれだけ繁殖し数を増やしているのだ。

 もっと棲み処を増やそうとするのが自然だろう。

 だが、二人で頭を捻ろうともどうにも答えに辿り着かない。

 仕方なく元居た男性用トイレに戻ると、俺達は再び驚かされる。


「何もいない…だと…?」

「にぃに…さっきもやった…」


 いや、だって仕方なくないですか?

 さっきまで敷き詰まっていた死骸が、一つ残らずないんですよ?

 そりゃあ、同じようなセリフを吐いちまうもんですぜ。


「つっても、こりゃあ一体どういうことだ?」

「にぃに…あれ…」


 俺がはてなマークを浮かばせていると、刀香が俺の袖を引っ張りながら前方を指さしている。


「あれ?鍵が閉まってる…?」


 先程は気づかなかったが、一番奥の個室の扉の鍵が閉まっていた。

 こんな虫だらけのトイレを使う物好きもいないだろうとは思ったが、念の為に扉の向こうに呼び掛ける。


「すんませーん、入ってますかー?」


 二度三度ノックをするが、返事は無し。


「ちょっと失礼しますよ、っと」


 俺は扉の留め具に足を掛け、上の隙間から中を覗き見る。


「お?おぉお…?」

「にぃに…どうしたの…?」

「デカい穴が開いてる」

「穴…?」


 トイレの錠前が幸いにもスライド錠の為、俺は鞘に納まっているカヴァリエーレを棒のように使い、内側から扉の鍵を開ける。

 留め具から足を下ろし扉を開けると、本来トイレがあるはずの場所には大穴が開いており、そこを覗き込んでも唯々暗闇が続くばかりで底は見えない。

 試しに公園で拾った小石を落としてみると、いつまで経っても落ちた音がしないぐらいには深いことが分かった。


「相当、深い…」

「しゃーない。ラペリングで降りるしかないか」


 俺はアイテム袋を漁り、ラペリングに必要な道具一式を取り出す。

 ハーネスを装着し、小便器の金具部分にロープを括り付け、それをエイト環やカラビナに通してゆく。

 俺が準備を終える頃には、刀香も慣れた手つきで同様に準備を済ませていた。


「準備完了…」

「んじゃ、いきますか」


 俺達は安全確認をしっかりと行ったのち、先の見えない穴の中へと吸い込まれていった。




「よっと…ここが一番下か?」

「たぶん、そう…」


 5分ほど降下したところで、足が地面に接触した。

 途中幾つか横穴が存在したが、ここはそれらよりも一回り大きな空間が広がっており、縦横ともに三メートル程はあるだろうか。


「にしても…」


 光源が無く仄暗ほのぐらい為、ナイトビジョンを着けた俺は辺りを見回して苦い顔をする。

 そこら中に竈馬が闊歩している為だ。


「巣が…出来てる…」

「ここで増えた奴らが外に出て来たっぽいな」


 ここで一つ幸いなことと言えば、闖入者ちんにゅうしゃである俺達に対して敵意が無いことだろうか。

 これだけの数に襲われたら、どんな歴戦の勇士でも対処することは出来ないだろう。


「とりあえず、奥を目指してみるかね」

「うん…」


 俺達はちょろちょろと動き回っている竈馬達を踏まないように注意しつつ、奥へと続く一本道を歩ああき始める。

 俺は念の為にと、スマホのマッピングアプリを起動する。

 幾許かの距離を歩いたが、案の定どこのマップにもヒットすることは無かった。


「にぃに…なにか来る…」


 隣にいる刀香が刀のつかに手を掛けながら腰を落とし、前方を注視している。

 俺もカヴァリエーレを構えると同時に、周囲の竈馬達が方々に散っていった。

 すると、奥から三匹の竈馬がこちらに近づいてくる。

 ただし、その体長は二メートル程にまで巨大化しており、目一杯クローズアップした写真を見ているかのようなグロテスクさを感じる。

 三匹はしきりに触角を動かし、辺りの情報を余す事無く収集している。


「で、でかくね?」

「殺虫剤は…効かなそう…」


 これはもう、虫と言うよりモンスターと言った方が妥当なレベルだ。

 そうこうしていると、向こうは俺達を敵と判断したようで臨戦態勢を取り、その内の一匹が強靱な後ろ足による跳躍で襲いかかってきた。


 --ズゴォォン--


 物凄い轟音と共に洞穴内が揺さぶられる。

 天井部分の岩肌は大きく抉られ、凄まじい衝撃と強烈なまでの威力がもたらされたことを如実に表している。

 こんな恐ろしい打撃を受けたら、ただの人間である俺達なら一溜まりもないだろう。

 まあ、その一撃を放った本人が自爆してるんだけど…


「まさか、自分の頭突きで死んでしまうなんて…」

「命は…儚いもの…」


 結果として二対二となったこの状況で、俺は透かさず攻撃を仕掛ける。

 しくも向こうの一匹も刀香に跳び掛かるが、俺は何の心配もせず竈馬に斬り掛かり、その長く伸びた触角を切り落とす。


「ふっ…!」


 刀香は、刀のつかに手を掛けたまま滑るように横に動く。

 避けただけのようにも見えるその動きだが、対する竈馬の体は真っ二つに分かれていた。


「討伐、完了…」


 居合術。

 それが、刀香の扱う武術だ。

 元々居合とは刀を抜く技術ではなく座って行う技の事を指しているが、刀香がこれを独自に昇華し、居合立合たちあい問わず瞬時に刀を抜き放ち、せんたいせん、果てにはせんせんを以って敵を打ち取る。

 その研ぎ澄まされた電瞬でんしゅんの一撃は、素人目にはただ刀のつかに手を置いているだけに見えることだろう。


「やっぱ妹様の居合は流石だな、っと!」


 触角を切り落とし行動が鈍くなった竈馬に連撃を加え、その命を絶った。


「ふぅ…デカいけど虫は虫だったな」

「にぃに…時間掛け過ぎ…」

「厳しいな、マイシスター…」


 妹からの手厳しい言葉を受け意気消沈しながら、最奥を目指して歩みを進める。


 ――ニュルニュルニュル――


 その後ろでは、竈馬の死体の中から白く細長い生命体が蠢いていた。




「せいっ!」


 何匹目になるか分からない巨大竈馬に、俺は葬送の刃を突き立てる。

 奥へ奥へと進む度に竈馬達はその数を増やし、おびただしい殺意を俺達に向けてくる。

 つまりは、そうまでして守らねばならないものが近いということなのだろう。

 ダンジョン的に言えば、ボス部屋が近いはずだ。


「はぁ…はぁ…」

「少し休むか?」

「ん…大丈夫…」


 息を切らし始めた妹をいたわりつつ、さらに奥へと進んでゆく。

 二、三度交戦したのち、とうとう最奥と思われる一際大きな空間に辿り着いた。

 広さは学校のグラウンドぐらいはあるだろうか。

 天井部分は高過ぎるせいか、暗くなっており良く見通せない。

 周囲からは時折、綿の塊のようなものが浮遊し、それらは遥か高みへと吸い寄せられるように舞い上がってゆく。


「あれは…魔力の塵か…?」


 ナイトビジョンを外し確認すると、それらは青白く発光しており、学校ダンジョンなどで敵を討伐した際に見られるものと酷似していた。


「ここも…ダンジョン…」

「ただの虫の巣ってわけじゃないみたいだな」


 魔力の塵が発生するということは、それはモンスターが存在するということ。

 あの竈馬達がモンスターなのか、はたまた別にモンスターが共存しているのか…


「にぃに……」


 刀香はそう呼ぶと、俺の裾を引っ張る。

 それと同時に、俺達の立っている地面が微かに揺れているのを感じる。

 その揺れは周期的で、回数を増すごとに大きくなってゆく。

 そう…それはまるで、巨大何かが近づいてくるようで――


「な、なんだありゃ……」


 ――気がつけば眼前には、先の巨大竈馬とは比べものにならないほどの鴻大こうだいがこちらに迫ってきていた。




 俺は努めて冷静にナイトビジョンを付け直す。

 先程よりもはっきりと見えるその姿は、さながら特撮ものに出てくる巨大怪獣のようだ。

 今までに狩ってきたモンスター達の比じゃない。

 幾度か厳しい戦いも経験してきたが、それらが生温く感じてしまう。

 それほどまでに強烈な印象を与えるそいつは、やはりどこからどう見ても竈馬だ。


 なぜ、一介の昆虫に過ぎない竈馬がここまで巨大化するのだろうか。

 なぜ、その竈馬がここまで広大なコミュニティを形成できたのか。

 なぜ、モンスターが存在しているのに冒険ギルドが発見できないのか。


 動揺から様々な疑問が浮かんでくるが、その解を今は導き出せはしない。

 とにかく、まずは――


「――こいつを仕留めるしかない、か…」


 俺はつかを握る手に力を込める。

 そして、隣にいる妹を見遣みやった。


「――っ」


 刀香と目が合う。

 どうやら刀香もこちらを見ていたようだ。

 さすが兄妹きょうだい、気が合うな。


「いけるか、妹よ…」

「…愚問」


 全く、頼もしく育ったようでお兄ちゃん嬉しいぞ。

 俺達は、向こうが仕掛けてくる前に一斉に駆け出す。


「はぁっ!」


 脆弱さを全く感じさせない、その丸太の様な前足に一太刀入れる。

 切り口からは透明な液体が吹き出し、通常のモンスターであれば結構なダメージであろう傷を与える。

 しかし、虫に痛覚は無い。

 この竈馬も同じようで、あろうことかその切られた前足を振り下ろして攻撃してきた。

 俺は咄嗟に回避すると、振り下ろされた場所に小さなクレーターができる。

 通常攻撃が即死級かよ、リッチ以上じゃねえか…


「ふっ…!」


 俺の反対側にいた刀香が、同様に足に斬撃を食らわせる。

 その狙いは関節部分に正確に入り、先端部分である跗節ふせつを切り落とす。

 竈馬は少しバランスを崩すが、残る五本の足で素早く体勢を整える。

 怯んだのも束の間、強靭な後ろ足で飛び上がると、その巨躯を活かした広範囲のプレスを仕掛けてくる。

 俺達は急ぎ範囲外へと離脱するが、竈馬が落ちてきた衝撃で蹌踉よろめいてしまう。

 刹那、竈馬の触角が鞭のように振られ迫ってくる。

 体勢を崩し避けることが出来ない為、太枝の様なそれを剣で庇いながら受ける。

 数m飛ばされるも何とか受け身を取り、俺は剣を構え直す。


「刀香っ!」


 同時に攻撃されていた妹を心配し、声を掛ける。


「…大丈夫」


 刀香も同様に受け身を取っており、大事には至っていなかった。


「刀香、作戦変更。やっぱ触角狙うわ」

「…了解。確実に当てていく…」

「んじゃ、もういっちょ突っ込みますか…」


「「装風そうふう…っ!」」


 俺達は同時に、自身の武器に風の魔法を纏わせる。

 そうすることで、威力は低いが風の刃を放つことが出来るのだ。

 しかし、射程はそんなに長いわけではない為、遠距離戦が出来るわけではない。

 引き続き敵の攻撃は回避しつつ、動く標的を斬りつけなければならない。

 それでも丸太よりは枝の方がマシであろう。

 外骨格なのも手伝って、中々に固かったしな。


「…そこっ」


 竃馬の隙を突き、刀香が触角に風の刃を浴びせる。

 だが、当の触角は少し傷が付くだけで、切り落とすまでには至らない。


「何発か当てないとダメだな、っと!」


 俺も負けじと風の刃を放つが、やはり断ち切れない。

 幸いにも竈馬の攻撃は単調で、回避も困難ではない。

 このままいけば、幾度目かの攻撃で触角を破壊できるだろう。

 そこで動きが鈍ればこちらのものだ。


「せぃやっ!」

「…はっ!」


 まだ両手で数えられる程度の斬撃ののち、一対の触角が地面へと落とされた。

 これで竈馬の感覚は相当麻痺するはず、だったのだが…


――ズドォン――


 振り下ろされた前足は、回避する前の俺の元居た場所にクレーターを作る。


「…普通に動けてね…?」

「攻撃手段が…一つ減っただけ…」


 このことから、確実に分かることが一つ。


「こいつ、普通の虫じゃねえな…」




 結局、触角を切り落としても普通に動けてしまった為、作戦は元に戻り、俺達はひたすら脚部を攻撃している。


「妹よ……兄ちゃん…しんどくなってきた…ぞ…」

「にぃに……根性…無さ過ぎ……」


 余りにも巨大な体躯の為、まるでだるま落としのように、その足を一本一本削るように減らしてゆく。

 片側の足を全て潰したあとでも攻撃の手を緩めない辺り、この竈馬からは何か執念のようなものを感じる。

 しかし、体の支えを失い胴が攻撃できるようになった為、そこからの戦いはほとんど一方的であった。


「これで、とどめだぁっ!」


 攻撃を受け続けた竃馬の動きが止まった一瞬の隙を突き、頭部目掛けつるぎを突き刺す。

 竃馬の体液が飛び散り、幾らか体をばたつかせたのち、その動きをピタリと止めた。


「や、やったか…!?」

「にぃに…それフラグ…」


 しまった、と思いつるぎを構え直すが、竈馬が再び動き出す気配はない。

 しかし代わりに、竈馬の体から白色はくしょくの細長い何かが、体をうねらせながら這い出てくる。

 あの長さが体のどこに収まっていたのだろうか。

 そう思わせるほど、今出てきている生き物の長さは長く、またその動きは嫌悪感を催すのに十分なものだった。


「き、気持ち悪ぃ…」

「こいつが…竈馬を操ってた、かも…?」


 こいつが全ての元凶なのかは定かではないが、放っておくよりは討伐してしまった方が確実だろう。

 俺達はそいつに歩み寄ると、同時に刃を突き刺す。

 そいつはジタバタともがき苦しむと、力尽きたかのように動きを止める。

 やがて死骸は淡く光り出し、魔力の塵となって上方に霧散していった。


「こいつがモンスターだったか。冒険ギルドに報告しないと…」


 俺はアプリを開いて報告書を作成する。

 冒険者には、新たなダンジョンを発見した場合、冒険ギルドに報告する義務がある。

 報告の仕方には、電話、メール、アプリ、直接冒険ギルドに赴くなど様々な方法があり、自分に合ったやり方で報告できるようになっている。

 俺の使っているマッピングアプリは、この報告用のアプリと連動させることが出来、より詳細な報告ができるようになっている。


 俺はアプリでの報告を終えると同時に、刀香もアプリでクエストの結果報告を終えたようだ。


「なんだかんだで、竈馬討伐どころじゃなかったな」

「うん…これじゃあ、クリア扱いにならなそう…」

「まあ、そんときはそんときだ。何はともあれ、お疲れ、刀香。」


 俺はそう言って、刀香の頭に手を乗せる。

 頭を撫でてやると、気持ち良さそうに目を細める刀香。

 うん、俺も元気出たわ、これ。


「それじゃあ、さっさと家に帰るか。母さん待たせてるだろうし」

「うん…迅速に帰還する…」


 俺達は心地良い疲労を感じつつ、来た道を戻ってゆく。

 ダンジョンを出たあと、刀香がこちらに手を伸ばしてきたので、大サービスで恋人繋ぎをしてあげた。

 すぐに振り払われるかとも思ったが、刀香の小さく可愛らしい手にきゅっと力が入る。

 日はとっくに暮れてしまっていたが、妹の顔はほのかに赤く染まっていた。









「ふむ。ゴルディオイデア・ラウテルに寄生された竈馬を二人で倒すとは、さすがは、といったところか…」


 剣斗と刀香が立ち去ったのを確認すると、男はひとつ。

 その男は完璧に気配を隠しながら、物陰から剣斗達の戦いの様子を見ていた。


「次はもう少し手強い奴を用意するとしようか」


 男は不敵な笑みを浮かべると、暗がりの中に姿を消していった。

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RPL~ロール・プレイング・ライフ~ むつらぼし @kakira0202

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