七時間目 学校ダンジョン@ソロ

 金がない。

 昨日の学校帰りに財布を開いたときの感想だ。

 こんなんじゃ漫画もゲームもラノベも買えない。


「つーわけで、二日振りだな」


 俺は学校が終わると同時に、校舎に併設されているダンジョン、通称“学校ダンジョン”に赴いた。

 学校ダンジョンは、学校関係者なら試験期間外、一般の冒険者なら学校の休業日であれば自由に出入り出来るようになっている。

 土日はそこそこ賑わうこのダンジョンだが、今日は平日かつテストが明けたばかりなのもあり、入り口である壇の周辺には人っ子一人いない。


「やっぱこの時期はいてんなぁ。まあ、今は丁度いいけど」


 俺は台座に適当なアイテムを置き、独りダンジョンに進入した。




「お、ラッキー。あんま分かれ道がないやつだな」


 スマホの画面にはマッピングアプリが起動されており、そこには[前回と一致]という文面が表示され、進入口からボス部屋までのルート、細部の行き止まりに至るまでの詳細な地図が描き出された。


 学園ダンジョンは三種類あるダンジョンタイプの内、“即時構築型”に分類される。

 即時構築型とは、特定の場所にアイテムを置く、または何者かが侵入すると同時にすぐさま内部が構築され、その時々で内部の形状が異なるダンジョンのことだ。

 一度出るとそのダンジョンは分解されてしまう為、何かやり残しがあったとしても同じ場所に戻ることが出来なくなってしまうのが難点だ。

 しかし、学校ダンジョンのようなアイテムで作られるダンジョンは、形成されたダンジョン内に人が残っている場合に限り、同じアイテムを使用すれば同じダンジョンに進入できる。

 その仕組みを利用したイベントなどが開催されたりもするが、ここでは割愛。

 つまりは、同じアイテムを使用したとしても異なるダンジョンが形成され、その度にマッピングが必要になるのだ。

 しかし、その形状の数には限りがあるらしく、今回は運のいことに以前マッピングしたダンジョンに当たったという訳だ。

 俺の使っているアプリは有料なのだが、広告は出ないし、何より性能がいい。

 今回も三部屋ほど通過した時点で、膨大なマップデータから情報を探し当ててみせた。

 さらにそのマッピングデータを基に、音声ナビまでしてくれる親切設計である。

 まあ、イヤホンしてないと音が駄々洩れで敵に気づかれるんだけど…


 俺はマッピングアプリの指示に従い、順番に部屋を攻略していった。




 マッピングアプリのおかげですんなりとボス部屋の前まで到達した俺は、今一度気を引き締め、扉の窪みに手を当てた。

 扉が開くと、十数体とゴブリンの群れと、頭上に王冠を載せたゴブリンキングが待ち受けていた。


「ゴブリンキングか。ドロップは期待できないな…」


 “ハズレ”を引いたことに落胆しながらも、俺は一直線に群れに突っ込んでいった。

 先に弓を持っているゴブリンを排除し、遠隔からの攻撃を無くす。

 キングが慌てて指示を飛ばすが、それに追いついていない奴を纏めてぐ。

 指示を受け連携を以って俺を討とうとする輩の攻撃を受け流し、急所を狙い一撃で仕留めてゆく。

 数十秒の内に、敵はキング一人となった。


「エタム!ウラヤハラカト!アヒトニアラカド…!」

「日本語でおk」


 俺は無慈悲に刃を振り下ろすとゴブリンキングはその場に倒れ、塵状になり霧散する。

 その塵の一部が寄り集まったかと思うと、王冠の形を形成しその場にアイテムを残していった。


「おぉ、珍しい。ドロップ率上げなくても落とすもんだな」


 ダンジョンのモンスターが死亡した時、その体は魔力の塵となりダンジョンに吸収される。

 その際、ダンジョンに吸収されずに留まった残滓ざんしが、そのモンスターのゆかりのものの形を成し、再び顕現したものがドロップアイテムである。

 以前貰ったアイテムドロップ率上昇アイテムは、この残滓が留まる確率を高める効果があるという。

 この他にレアドロップ率を上げるアイテムもあり、より質の高い残滓―残り物なのに質が高いというのもおかしい話だが―が留まりやすくなるようにするものも存在する。

 今回の王冠は、レアドロップに分類される貴重なものだ。

 しかし、ダンジョンの難易度が低いせいと、今のところ用途がそのまま装備することしかないこともあり、レアドロップながら価値が低いという不憫ふびんなアイテムなのだ。


「家の倉庫で埃被ってるやつも、そろそろ売り払った方がいいかな…」


 レアドロップなのに安値で取引されていることに納得できていない俺は、いつか高騰した時の為に自宅の倉庫にいくつか保管している。

 今回のドロップでまた在庫が増えたなと思いながら、学校支給のアイテム袋に王冠を突っ込む。

 この袋には空間系の魔法が施されており、見た目は弁当箱が入ってそうな巾着袋なのだが、中の広さはそこらの一軒家よりも広いらしい。

 物を取り出すときは、取り出したい物を頭に思い浮かべると手に触れることが出来るのだが、詳しい原理は教えてくれなかった。

 市場にも似たようなものは出回ってはいるがどれも容量が小さい為、生徒や卒業生達はもっぱらこちらを使用している。


「さぁて、宝箱宝箱っと」


 このダンジョンの最奥には、あつらえ向きな宝箱部屋がある。

 これは学校ダンジョンの大きな特徴で、中には学校内で使える貨幣である“アド”に始まり、武器や防具、このダンジョンに出現するモンスターのレアドロップなどが入っている。

 しかし、胸が躍るようなものが手に入るのは稀で、大体は駄菓子が買えるほどの額のアドか、切るというより殴る方が主体の剣、制服の方が丈夫に思える粗末な防具等々、いわゆる“ゴミ”と呼ばれるようなアイテムばかりなのだ。


 俺はゴミが出ないことを祈りつつ、宝箱の留め具を外し蓋を持ち上げた。


「…まあ、そんなもんだよな」


 俺は少額のアドを財布に、ゴミ達はアイテム袋に入れてゆく。

 ゴミはゴミでも売れば小銭になるんだ…

 俺はアイテム全てを回収すると、出口である壇から地上世界へと帰還した。




 帰還後すぐにダンジョンに進入し、ソロ周回を始める。

 ダンジョン一周がおよそ30~40分。

 道中のモンスターとボス部屋でのアイテムドロップ、宝箱のアイテムを売却することでおよそ800~1000円。

 時給換算すればおよそ1500円といったところか。

 そこらでアルバイトするよりは稼げるのだが、如何せんぼっちは寂しい!

 今まではそう思っていたのだが、リエがいることでそのデメリットも解消。

 これはソロ周回なのか、という些細な疑問を抱き始めた五周目の宝箱部屋で、珍しいものが手に入った。


「おろ、こいつは…」

『なになに?どしたのマスター?』


 腰に携えたリエが興味津々に尋ねてくる。


 [学校法人九魔学園私立英禰学校併設ダンジョン下級の証]

 白地のシンプルなデザインであるカードタイプのアイテムには、そのように書かれていた。

 下級であることを間違えないようにする為か、他が黒文字なのに対しそこだけ緑色で書かれている。


「下級の証だ」

『下級って、今のやつよりゆるい感じのやつ?」

「いや、難易度は上だ。今周ってるのがいわゆる“無印”ってやつで、“下級”、“中級”、“上級”、“超級”の順に難しくなってくんだ」

『ふぅん。じゃあ、ちょっとムズくなった感じなんだ』

「いや、俺らの一個下は3人以上のパーティーじゃないと進入禁止のレベル。俺らの学年でもソロは非推奨だったかな」

『え?それってやばたんじゃない?』

「ふっ…冒険系科目主席を嘗めんなよ?」

『いやいや、そういう問題じゃないっしょ!』

「大丈夫だって。今はソロじゃないし」

『は?どういう…』

「リエがいるだろ?」

『……そういうの、ズルい』

「ズルくて結構」


 俺は宝箱部屋を出てダンジョンの入り口に戻ると、壇に設えられている台座に証を置き、学校ダンジョンの下級へと進入した。




 実を言うと、下級ダンジョンに進入するのは初めてではない。

 一年の時に弓奈、忍、癒衣、奏の5人パーティーや、休日の野良での募集で何度か入り、宝箱部屋までの到達を幾度も果たしている。

 最少人数では三人でクリアしており、その時も厳しい感じは全くしなかった。


『そうは言ってもソロは初めてっしょ?油断しちゃダメだかんね』

「あぁ、分かってるよ。心配してくれてありがとな、リエ」

『べ、別に心配なんか…』


 ツンデレギャルっ娘に心配されつつ、俺はマッピングアプリを起動させながら進んでゆく。

 下級ダンジョンは無印よりも踏破した数が格段に少ない為、マッピング済みの構成に当たる確率が低い。

 今回も案の定、未踏破の構成だった様で、マッピングアプリはその機能をマップ構成の記録のために費やしている。


「くっ…ゴブリンも色が違うだけで、こんなに違うんだもんなぁ…!」


 当然、敵の練度も段違いだ。

 無印では雑魚敵だったゴブリンも、下級になればそれなりに手強いモンスターへと昇格している。

 見た目も変わっており、無印では緑色だった体表が下級になると青色になっていて、ろくに連携を取ってこなかった奴らがそれなりのチームワークを披露するまでになる。


「ふぅ…こんなもんか」

『マスター、大丈夫…?』

「あぁ、大丈夫。ありがとう」


 心配してくれる人がいるというのはいいもんだ。

 俺は心の中で再度リエに感謝しつつ、奥へ奥へと歩を進める。




 無印であればそろそろボス部屋であろうかといったところまで進むと、目の前には扉ではなく、下へと続く階段が現れた。

 学校ダンジョンは、難易度が一つ上がる度に階層が一つずつ増える仕様になっている。

 一つの階層の広さは無印と同様の為、超級にもなれば単純計算で五倍の広さということになる。

 敵の練度と広大なマップ。

 それらを相乗したダンジョンの攻略時間は、無印と超級では天と地ほどの差もあるという。


『へぇ、マスターって物知りじゃん』

「――って、攻略wikiに書いてあった」

『あーね、リエの感心返してほしいんですけど』


 そんなことをリエと話しながら、俺は二階層も順調に攻略してゆく。

 下級にもなるとそこらの雑魚モンスターでもアイテムをドロップする為、俺は攻略後のお財布事情を想像し頬を緩ませる。


『……キショ』

「やめろ。ガチで傷つく」


 俺のメンタルが削られながらも、何とかボス部屋まで辿り着いた。


『道中の敵さんややつよだったけど、ボスとかだいじょぶなん?』

「99.9%大丈夫」

『なにその0.1%』

「その確率でレアモンスターが出るらしいんだけど、そいつがヤバいらしい」

『ヤバいって、なにが?』

「即死攻撃があるらしいんだ」

『え、ちょ、ヤバいなんてもんじゃないじゃん!』

「まあ、0.1%だし出ないだろ(フラグ」

『ちょ、マスター!』


 俺はリエの制止にも構わず扉を開けると、そこには――


「ふぇっ!?」


 ――可愛らしい女の子が、おどおどしながらこちらを見ていた。




『…で、即死攻撃は…?』

「この可愛さ、即死級…!」


 リエの呆れながらの問い掛けに、俺は躊躇わずにそう答えた。

 この会話は周囲にも聞こえているのだが、俺の膝の上に乗っている少女はというと、我関せずとでも言う様に、俺に頭を撫でられ嬉しそうに目を細めながら幸せを享受している。

 こんな可愛らしい見た目だが、攻略wikiの情報によれば彼女がまご方無かたなきレアモンスター“リッチ”である。

 見た目はただの幼女であるし人語も解する為、こんなところでなければモンスターだとは思わないだろう。


『でも、写真と違い過ぎない?』

「確かに、一枚目は似てるけど、二枚目はもはや別人、もとい別モンスターだな」

「けんとー、りっちもみたい」

「ほい、どーぞ」


 攻略wikiに載っている画像をリッチちゃんにも見せる。

 一枚目は目の前のリッチちゃんそのまんまなのだが、二枚目のものは目が赤く光り、胸元まである長い卯の花色の髪は逆立っていて、身長の数倍はある大きさの鎌を振るい、今にも襲い掛かってきそうな迫力のある画像だ。


「ほあぁ…りっちがいっぱーい…!」

「こっちもリッチちゃんなの?」


 俺は二枚目の画像を指さしながら聞いてみると、「うん、りっちだよー」と満面の笑みで答えられてしまった。まじか。


「みんな、りっちをコロそうとしてくるから、こわくなってこうなっちゃうの…」

「…そっか、そうだよな」


 どうやらリッチは討伐されても完全には死滅しないらしく、このように記憶を引き継いだまま再び顕現するらしい。


 リッチちゃんも、襲いたくて襲っているわけではない。

 飽くまで自衛の為に鎌を振るっていたのだ。

 まあ、初っ端から二枚目の画像みたいな見た目だったら、俺も剣を鞘に納められていないだろうけど…


「でも、けんとはやさしいからすきー」

「おれもりっちちゃんがすきー」

『…ロリコン』


 ロリコンでもいい。

 そう思えるほどにリッチちゃんは可愛い。

 可愛いは正義なのだ。

 ちなみに即死攻撃はこの可愛さではなく、リッチちゃんの振るう鎌が首筋を掠めるだけで首がポロリするという恐ろしいものだったりする。


「そだ、けんとにこれあげる」


 リッチちゃんが黒いふわふわのスカートのポケットをまさぐると、アメジストの様な紫水晶が嵌め込まれた銀色の指輪を取り出し、俺に差し出した。


『わあぁ、きれい…』

「いいのか?」

「うん。これでいつでも、けんとにあえる」


 どういうことだろう?

 この指輪を見たら思い出してくれということだろうか。


「りっちにやさしくしてくれたヒトは、けんとがはじめて。だから――」


 そう言ってリッチちゃんは俺の膝から立ち上がり、俺の頬に口づけをする。


「だいすきだよ、けんと」


 そう一言告げ、リッチちゃんの体は淡く光り出し、魔力の粒子となって紫水晶に吸い込まれた。

 淡々と開かれた宝箱部屋への扉が、この場からリッチちゃんがいなくなったことを如実に物語る。

 あまりにも突然の別れに、俺の思考は追いつかない。


「リッチちゃん…」

『マスターが変態ロリペド野郎にならなかったことには超ASだけど、これじゃガチしょんぼり沈殿丸だし…』


 中々酷い言い様だが、リエもリエで落ち込んでいるようだ。


「リッチちゃん…もう一度お話ししたかったよ、リッチちゃん…」


 突然すぎる千分の一の奇跡の終幕。

 それに抗おうと、叶う筈もない呟きを零す。

 すると突如、紫水晶が輝き出し魔力の粒子が周囲に放たれる。

 それらは人の形を作り出し、やがて目の前には願った人物が姿を現した。


「え、なんd

「けんと!せっかくのおわかれがだいなし!」

「ハイ、ゴメンナサイ」


 幼女に怒られ、困惑しながらも謝る俺氏。

 辱め?むしろご褒美です。


「おなまえ、にかいよんだらでてきちゃうから、つぎからきをつけてねっ!」

「ハイ、ワカリマシタ」


 そう言い残して、再び紫水晶に吸収されてゆくリッチちゃん。

 感動の別れと再会が台無しですね。


「この指輪、すげぇ!」


 当の俺は、あんまり気にしてないけど。


『マスター、ちゃんと反省しなきゃダメだよ?』

「リッチちゃん、リッチちゃん」

『話聞いてた!?』


 リッチちゃんの名前を二回呼ぶと、紫水晶から放たれた粒子は先程と同じ形を成し、目の前には同じ人物が現れる。


「こんにちは、リッチty

「オイアン、アヒグト…?」

「アッハイ」


 赤い眼光と逆立つ髪で「次はないよ」と警告する姿に、俺は片言にしか喋ることが出来なかった。

 人語だと可愛い幼女だけど、迷宮言語だとモンスター感あるわぁ…

 リッチって、怖ぇー……


『リエのマスターって、馬鹿なのかな…』

「馬鹿は好きだけど、馬鹿じゃないぞ!」

『その答えが馬鹿っぽい』

「ひどくね?」


 そんな軽口を叩かれつつ、宝箱部屋へと進む。

 …軽口だよね?


「そぉい!」


 俺は勢い良く箱を開けると、中には無印とは比べものにならないほどのアイテムが詰まっていた。


「証でしか入れないからか、奮発気味なんだよなぁ…!」


 俺は若干の興奮を伴いながら、箱の中身を確認してゆく。

 まず目につくのはアドだ。

 無印とは違い、学食が一週間は食べられるぐらいの額まで跳ね上がっている。

 続いて手に取ったのはクロスボウ。

 サブ武器として持つには良さそうな代物だが性能が良し悪しがよく分からない為、明日にでも弓奈に見てもらおう。

 その他ゴミ勢も少しは切れそうな剣やそこそこ重みの感じる鈍器、布よりはマシな鎧などにグレードアップ?している。

 そして――


「お?ぉお…おおおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!」


 ――最後、一番下に隠れるようにして入っていたそれは、リッチのレアドロップである“リッチの鎌”だった。


「え、待って、どうやって入ってたのこれ!?いやいいか!そんなもんだダンジョンなんて!あははは!」


 テンション爆上げで可笑しくなったの図、である。

 しかし、これは仕方ないのだ。

 攻略wikiによると、無印の宝箱から下級の証が出る確率がおよそ10%。

 リッチが出る確率が0.1%。

 そのリッチを討伐し鎌がドロップした報告は、片手で数えるほどしかないのだ。

 いやうえにも期待が高まるというものだ。主に金銭的に。


 俺は変なテンションのままダンジョンを出て、黄龍広場にある換金所を目指した。




 換金所――そこは、主にダンジョンで収集したアイテム等を金銭に換える場所である。

 建物の規模はコンビニエンスストア程はあるだろうか。

 中は外見の割りには狭く感じ、入ってすぐにはカウンターがあり、奥には金銭に交換されたアイテムを置くスペースが広々と取られている。

 俺は、カウンターで暇そうに煙草を吹かしている壮年の男性に話しかける。


「おっちゃーん!アイテム見てくれー!」

「なんだ剣斗、また性懲りも無くゴミ集めか?」


 足繁くダンジョンに通いアイテムを換金している俺は、校内の換金所の主人とは顔馴染みである。

 おっちゃんが冗談交じりに俺をからかってくるが、今日の俺はひと味違う。

 何せレアドロップを二つも持ってきているんだからな…!


「まあまあ。とりあえず鑑定頼むわ」


 おっちゃんの言葉に余裕を見せながら、俺はアイテム袋に入っているゴミ達を並べた。

 おっちゃんは手際良くそれらを鑑定し、レジスターに打ち込んでゆく。


「…っと、合計で4280円だな。アイテムはこれで全部か?」

「いや、今日はレアが二つあるんだ」

「おぉ、珍しいこともあるもんだな。王冠か?」

「一つはな。だが、もう一つは目ん玉飛び出んぞ?」


 疑問符が浮いているおっちゃんに今日のとっておきを見せつけると、意外な一言が返ってきた。


「おいおい、流石にただの鎌は買い取らねぇぞ?」

「いやいやいやいや、よく見ろって!!」


 何を言い出すんだこの親父は。


「はぁ、どれどれ…」


 おっちゃんは渋々鎌を手に取り、隅々まで視線を走らせる。

 そして、柄の部分に書いてある文字を見て顔色を変えた。


「イッティル…リッチ…おいおい、嘘だろ…!?」

「嘘かどうかは、おっちゃんが判断することだろ?」

「あぁ、確かにそうだが…少し待ってくれ、実物は俺も初めてでな…」


 そう言い残すと、おっちゃんは奥に引っ込んでゆく。

 少しすると、片手に資料らしき紙束を持ち戻ってきた。


「すまんが、鑑定に30分から1時間ほどかかりそうだ。時間は大丈夫か?」

「あぁ…そろそろ帰らないと不味いかな」


 スマホの時計を見ると、時刻は20時過ぎを表示していた。


「なら、明日の放課後にウチに寄ってくれ。その時に結果を教えるよ」

「おっけー、わかった」


 俺はそう返し、換金した分を貰おうとすると、おっちゃんが思い出したように付け加える。


「あぁ、そうだ。王冠があるんなら売ってかないか?」

「お、とうとう高騰したか?」

「あぁ。実はな、王冠に含まれる金属が精密機械の部品にいいとかで需要が増えてきてな。今値上がりしてきてるんだ」

「おぉ、まじか!?で、で?いくらよ?」


 俺は食い気味におっちゃんに問い質す。


「聞いて驚け。一つ1万だ」

「マジかよ!百倍じゃねえか!!」


 投資家もビックリな高騰っぷりである。


「大マジだ。お前、家にも溜め込んでただろ?数が多いなら色付けてやるぞ」

「たぶん二十個ぐらいあるんだけど」

「いや、さすがに溜めすぎだろ…」

「レアドロなのに百均レベルとか絶対おかしいと思ってたんだから、仕方ないだろ!」


 下手したらゴミよりも安かったしな…


「まあ、今回はそれが功を奏したんだから、何も言えないな・・・とにかく一個置いてけ。明日持ってきたら、今日の分も加味してサービスすっから」

「さんきゅー、おっちゃん!んじゃ、これな」


 俺はおっちゃんに王冠も渡し、それらを売った分のお金を貰い受ける。

 14280円…なかなかの金額だ。

 明日あしたにはもっと貰えると思うと、笑いが込み上げてくる。

 あぁ、これだから冒険はめられない…!


 俺はおっちゃんに別れを告げ、換金所を後にする。

 まだ見ぬ鑑定結果に思いを馳せながら、俺はリエと共に帰路に就いた。





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