後日

 風邪が治って、久々の登校。いつものように香織と一緒にだ。

「いっくん、風邪はもう大丈夫?」

「あぁ、あんな矮小な存在、俺が本気を出せば瞬殺だよ」

「うん、いつものいっくんだね」

「何だよ、それ」

 聞いても香織は何も答えないで笑顔でこっちを見ているだけ。何か、そうやって見つめられていることに耐えられずに、俺は前を向いてゆっくりと歩く。

「ねぇ、あたしがお見舞いに行ったときのこと、覚えてる?」

「は?」

 香織がお見舞い?そんな記憶は俺にはない。どういうことだ?あ!もしかして、裏の世界の人間が俺の記憶を消した?きっと、香織が来たときに何か事件があったに違いない!そして、俺はやつらにとって不都合な何かを知ってしまったんだ!

「大丈夫!香織は俺が守る!」

「え?急に何?」

 香織は首を傾げ、本当に訳が分からないような表情をしている。しかし、何故か、頬が少し赤く染まっているような気も……。

「え?だから、裏の世界の人間との事件に巻き込まれて、それで……」

 そこまで言うと、香織は声を上げて笑い始めた。

「もう、違うよ。そういうのはいっくんの頭の中だけ。そうじゃなくて、右手とか、封印とか、そんなこと言ってたんだけど、覚えてないの?」

 思い出す。たしか、風邪で休んだ初日に右手に何か温かいものを感じて、封印が解ける、とかそんな妄想をしていたような……。あれって、もしかして、香織の手を握っていた?

 それに気付いた瞬間、顔が熱くなった。

「もしかして、俺、香織の手、握ってた?」

「うん。それで、あれって何なのかなぁ、って思ったんだけど……」

「……ふっ、あれは、そう、俺の右手には強大な力が封印されているのだ。この俺でさえ制御が難しいほどの。そして、その封印が解けそうになっていた。しかし!俺は再び封印に成功した!もし、失敗していたら、きっと、この世界は……いや、全ては語らないでおこう」

「ん~、よく分かんないけど、いっくんが元気になってよかったよ」

 そう言うと香織は俺の右手を掴んで歩き始めた。そこからまた不思議な熱が伝わり、身体が熱くなってくるのを感じた。

 まさか、香織が俺の右手の封印を解く鍵だったのか……?




────────────────────────────────


 右手の封印とかいっくんは言ってるけど、本当に解けそうなのはあたしの方だよ。いつもはワケ分かんないことばっか言ってるくせに、たまにドキッとさせるんだから。そう、それは──


 封印してるあたしの気持ち恋心

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

その右手が掴むものは 星成和貴 @Hoshinari

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説