エピローグ:新たな始まり

―――朝。

 誠司が目を覚ますと、遅刻ギリギリの時間だった。目覚ましがネオフロンティア製ではない為、電池が切れて止まっていたのが原因だ。慌てて制服に着替え、急いで朝食をとる。つけっぱなしのテレビでは、ニュースではなくワイドショーが流れていた。


「今日は能力研究の第一人者、橋浪裕彦博士に来て頂きました。さて、最近頻繁に起きている能力者による犯罪ですが―――。」

「その前にまず一つ、伝えておきたいことがあります。」

「なんでしょうか?」

「犯罪は能力のあるなしに関わらず、起きています。道具同様、能力も使う人次第で、良くも悪くもなります。そんな中、能力者による凶悪事件だけをピックアップして、能力は怖いものだ、という間違った認識を広めるのは止めていただきたい。実際、能力が発現しても、善い行いをする人はいくらでもいます。」

「え、あの…。」

「能力とは、来るべき平和の為、人類が得た新たな道具なのです。まずは、それを理解する必要があると、私は考えています。能力のあるなしで、人は区別されるべきではない。そこに境界なんか無いんですよ。」


 思わず、テレビを見入ってしまった。そこに移っていたのは、施設で見た、白髪の男性だった。司会者や他の自称評論家がしどろもどろになる中、能力の誤った認識を正すために力説していた。

「誠司!まだあ!?」

 外から、文乃の声が聞こえて我に返る。口の中の物を無理矢理飲み込んで、鞄を手に取り、靴を履いて外に出る。玄関を出ると、部活の道具を入れた、大きな鞄を両手にもって待っていた。

「遅刻しちゃうよ?いこ!」

 二人して駆け出す。だが、誠司の寝坊によるタイムロスは大きく、間に合うかどうか怪しいラインだった。

「このままじゃ間に合わない。文乃、俺のことはいいから置いて行ってくれ!」

 走りながら、既に息が上がっている誠司は、誠司に合わせて走っている文乃に叫ぶ。文乃は大きい鞄を肩に背負いながらも、息が乱れてる様子はない。帰宅部も長いと、女子相手とはいえ毎日部活をしている文乃とは体力に差を付けられているようだった。

「嫌だよ。誠司を置いていけるはずないじゃない!」

 そういうと、文乃は誠司の手を握った。

「こういう時こそ、私の出番だよ。」

 誠司の手を握る手とは反対の手を前に突き出す。

「私の能力ね、最近面白いことが分かったの!軽いものは吸い寄せることが出来るけど、相手が重いものだと、逆に吸い寄せられるんだよ?」

 文乃が言った後、突然、握る手の引っ張る力が強くなった。気が付くと、走行しているトラックの後ろを二人は飛んでいた。いや、トラックに引きよせられていた。

「これなら余裕で間に合うね。」

 のほほんと言う文乃に、誠司は思わず叫んだ。

「おい!能力使うなって、見られたらどうするんだよ!?」

「大丈夫だよ。」

 文乃は、振り返って笑った。

「能力は怖いものじゃないよ。それに、何かあっても誠司が守ってくれるから!」

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ボーダレス 由文 @yoiyami

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