ふー、面白かったぞ。
本作はそのタイトルから瞭然の通り、フィリップ・K・ディックの『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』に対するオマージュ小説だ。プロフィールによると、筆者は官能小説をメインステージにしており、第一話からのべつまくなく官能シーンが描かれる。
ちょっとこの官能シーンには驚いてしまうのだが、本作に流れるSFの骨子は本物だ。
まず舞台が大阪なのが何よりいい。大阪・大坂・オーサカ。この猥雑さよ。あえて比較するけれど、チバ・シティやネオサイタマにはない(あるいは真似できない)猥雑さ。これはきっと近世以来「天下の台所」として独自に歴史が積み重ねられ、そのままSF世界に突入してしまったが故に起こる化学反応だろう。発せられる言葉も人々のしぐさも固有の建築物も、どこかサイバーパンクに親和性が高い。大阪プロパーであろう筆者は、こうした舞台描出に挑戦し、エロスをも包含して十全にこれを実現した。この点が本作の大いなる魅力だ。夜の「大阪」を空から眺めるシーンがある。ここが読んでてグッときた。
本作は『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』を大阪を舞台に移して、おおよそ筋をなぞっていくのだが、いつの間にか筋はオマージュ元の小説をふわりと遊離し、独自の展開を見せ始める。この浮遊感、読んでてゾクゾクする。そして、物語の根底に流れるディックへの崇敬の念はいささかも失われないのだ。現実とは何か? それは本当に確からしいものか? 個人の世界への認識は本当に確かか? 人間とは何か? こうした重厚なテーマが勢いを失することなく継続して描かれる。こうした「現実が当たり前にあること」を突き崩す姿勢は、ディック未読の読者に対しても、SFの魅力として伝わりうるものと信じている。
読んでいて、まさに「センスオブワンダー」を堪能できる作品だ。