第31話 ユー・アー・バッド・ドッグ・ベイビー

 石戸は自分の下半身が全裸であることに気付いた。そういえば、千晴の口に思い切りぶちかました後、そのまま眠り込んでしまったのだ。


 それだけではなく自分の陰茎が、また激しく怒張していることにも気付いた。


「……ほらほら、見て見て」栞が背後で言う。「ホラな……あの人……ええ人のフリしてるけど、ほんまとんでもない色魔やで。なあ、あんた……」

 栞が馬亭に囁く。

「あのロリコンの変態のけだものの人でなしが……あたしにこの部屋で、どんなことしたか……気にならへん?……あのいたいけない少女の口の中にどばーーっ……ってぶちまけて、その下の根も乾かんうちに、あんなにちんこ硬くしてるような人非人が……このあたしにどんなえげつないことしたんか……どんないやらしいことさせたんか……気にならへん?」

「……ふふふ」馬亭が笑う。「……どんなことされたんや?」

 と、ぐいっ、と栞を突き上げる馬亭。

「あんっ………」声が震えている。「……なんか……ますます硬くなってるで……んんっ……す、すごい……」

「ほれ、言うてみ……栞ちゃん。あの石戸くんは、君にどんなことしたんや……?」

「……んんっ………」栞が奥歯を噛み締めて、辛うじて答える「……そんなん……いやらししゅうて言われへんわ……」

「で……石戸くん」と馬亭。「……で、君はその目の前の可愛い可愛い千晴ちゃんに、どんなことするつもりなんや……? この栞ちゃんにしたんと、同じこと……わしの目の前でやってみせてくれへんか……?」


 と、気がつくと……石戸の目の前から千晴の姿が消えていた。


「……?」石戸はその感覚に思わず飛びあった。「……ひ、ひえっ!!」

 いつの間にか石戸の背後に回っていた千晴が、石戸の尻の肉を左右にぐい、と開いたのだ。

「……こういうの……イヤですか?」

 千晴が呟く。

 慌てて石戸は肩越しに千晴の顔を見た。

 千晴は相変わらず真剣そのものの表情で、石戸の顔を上目遣いに見上げている。

 その小さな両手は、しっかりと石戸の尻肉を掴んでいたのではあるが……。


「……いや、その……イヤとかそういう問題やなくて……ああっ! おい!!!」

 

 千晴が石戸の開かれた尻の間に、いきなり顔を埋めたのだ。

 間髪を入れず、熱く、湿ったものが石戸の肛門に触れる。

 

「……おっ……あっ……」

 千晴の舌が、ゆっくりと動き始めた。

「ん………む………」

 千晴が悩ましげな鼻息と共に、その独創的な愛撫を続行する。


 小さな舌先が、石戸の肛門の皺一本一本を確認してくように放射状の線を描く。

 そのたびに石戸の尻がびくん、びくんと踊ったが、千晴はそうすればそうするほど、その顔を強く石戸の尻に……尻の肉と肉の間に押し付け、舌をていねいに使った。千晴はゆっくりと頭全体を回しながら、その遠慮うがちなのか大胆不敵なのかよくわからない攻撃を続ける。


 時折、千晴の小さな鼻先が石戸の肛門に触れた。

 千晴の柔らかな髪が、石戸の控えめに見ても美しいとはいえないがさがさの尻肉をやさしく撫ぜる。


 そうこうするうちに、千晴の両手は石戸の腰をゆっくりと前進し……あれよあれよという間に、前に回ってきてはしっかりとその陰茎を掴んだ。


「おうっ……!!」


 石戸が思わず腰を引く……と、肛門に千晴の唇が押し付けられる。


「……すっげー……」栞がベッドの上で驚嘆の声を漏らした「……千晴ちゃん、やるなあ……すっごい独創的やわ」

「いやあ、あんなのは初めて見るわ」と馬亭「君も教えてへんやろ? あんな事?」

「うーん……負けたわ……もうあたしの時代は終わったって感じ?」

 

「……あの……」千晴が石戸の尻から顔を離して言う「……すみませんが、静かにしてもらえませんか? ……しゅうちゅうできません」


「……ごめん」と栞。

「悪かった」と馬亭。


「あっ………おっ………」


 千晴はそのまま、まるで絡みつくような指使いで石戸の陰茎を弄びはじめた。

 金管楽器のキーでも操るかのような手つきだ。

 先ほどの少し乱暴すぎる闇雲な上下運動とは、一味も二味も違っている。

 

 これは、進歩なのだろうか? ……ならば恐ろしいくらいの進歩だった。


 千晴くらいの年齢の少女は、日々刻々と……いや、一分一秒と……見たこと、聞いたこと、触れたこと、嗅いだこと、そして味わったこと……そんな体験の全てを、その瑞々しい脳細胞に記憶し、自分のものにしていく。そしてそれをすぐさま、具体的行動として実践してみせる……石戸は自分が千晴くらいの年齢だった頃のことを思い出した。自分はこれほどまでに飲み込みがよく、聡明な子供だったろうか? ……いや、今の自分さえ、ここまで利発で、順応性に富んでいるといえるだろうか?


 確かに自分は、この廃墟の中に住居を構え、廃品にまみれながらも人間的生活を維持してはいる。そしてそれがいかに自分にとっては気に食わないものではあろうと……いちおうの職業にも就き、収入も得ている。



 しかし……一体今の自分に、それ以上の何ができる?


 ここを飛び出して、何か新しいものを掴むための何か。

 そんなことをする技量も、柔軟性も、何か新しいことを学び、自分を高めようとする気概も、自分にはない。

 だいいちそのために最も必要な勇気が自分にはない。


 そんな自分に一体何ができる?

 さっきまで見ていた夢のなかで、自分はその「何者か」だったような気がするが。


 千晴にまさぐられる陰茎は、ますますその硬さを増していく。


 見下ろしながら、石戸の脳裏には、キッチンの戸棚にある「銃」が浮かんだ。


 それがどこからやってきたのかは判らない。

 

 そんな自分に一体何ができる……? ……銃? ……一体何なんだ?


「……そしてわたしは夢を見つづけるのだ……」ベッドの上で、栞をゆっくりと突き上げながら……馬亭がまたわけのわからないことを呟きはじめた「………牧羊の神のおぼろげな影が……芝生を踏み………わたしの歓びの歌の響く霧のなかを………ゆっくりと歩んでいくのを」

「ああんっ………それ、あかんって言うてるやろ……ああ、いや、いやああ……」栞が喘ぐ。「………たのむし、それだけは堪忍して………なあ、なあて」

「……夢を……新しい夢を……」馬亭は堪忍しない。

「………あ、あ、あ……………………んんんんんっ!!!!」

 

 そして栞は大人しくなった。


「まだ大丈夫ですか?」千晴が聞く。「もう、いっちゃいそうですか?」 

「……………」石戸は答えなかった。もはや答える余裕さえなかった。


 千晴の舌先が……肛門にねじ込まれてくる。


 同時に千晴が猛烈な勢いで陰茎を前後に扱き始める。

 

 次の瞬間、石戸は床にめがけて精液の放物線を描いていた。

 

 陰茎の角度さえそれなりに調整させれてれば……それこそ天王寺の駅まで届いていたかもしれない。


 はて?……何故だ?


 なんで銃のことをこんなときに思い出すんだろう?


「……ワン」

 千晴が石戸の背後で呟く。ほとんど聞き取れないような声で。

「……え?」

「……ワンワン」千晴がまた言った。


 あまりにも感情が込められておらず、その声を可愛らしく演出しようとする気持ちはまったく感じられないため……それが何を意味するのか石戸にはしばらく理解しかねた。


「くぅーん………」また千晴が言う。


 そして千晴は四つんばいになると………石戸の足元を這いはじめた。

 

 「はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……はっ……」


 千晴は………犬のマネをしているのだ。

 

 千晴はそのまま石戸の前方まで張っていった。

 薄暗い部屋の中で……背骨をくっきりと映し出した千晴の狭い背中と、硬くて小さな尻が突き出されている。


 そのまま千晴は、ペタンと床の上に這いつくばった。


 ぺちゃ……ぺちゃ………。


 石戸は突っ立ったまま、千晴の尻と……小刻みに揺れるそのおかっぱ髪の後頭を眺めていた。と、突然千晴が顔だけを石戸に向ける。


 ……その唇と小さな鼻の頭が、白く濁った粘液で濡れている。

 千晴はそのとき、はじめて薄く笑った。


 「ワン」また千晴が呟く。


 そして……石戸が床に撒き散らした精液を舐めとる作業に戻った。

 

 銃だ……銃。

 どこからやってきたのかわからないその考えは……石戸の心の中で、長い灰色の雲のように……音を立てずに大きくなっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る