第27話 悪夢が現実ならどこに戻るのか

「よ……よろしく……」石戸は反射的に馬亭に対してそう答えてしまった自分の口を呪った。「……っちゅーか……あ、あ、あんた、どこから入ってきたんや?」

「どこって……入り口からやけど……」馬亭は仰向けの姿勢のまま、栞の両脇に手を差し入れると……その躰をまるで縫いぐるみかなにかのようにひょい、と抱え上げた。「この部屋にはなんや、隠し扉でもあるんかね?」


「……ああんっ!」


 宙に浮いた状態で、栞が身をくねらせる。

 

 開いた脚の間にある栞の陰毛は……石戸にとっても馴染み深いはずのあの薄い茂みだ……まるで栞が洗い髪を乾かしているときそっくりに瑞々しく輝いていた。

 当然、目に入るものは美しいものばかりではない。

 その下では馬亭のその名は体を表すかのような巨大な肉の柱が、透明な粘性の糸で栞の入り口と繋がれていた。


「あ……はあっ……い……居朗ちゃん……なあ、なあてっ」空中に捧げるように浮きながらも……栞はその細い腰をくねらせる「……なあ……な……なあ……つ……続き………して」

「……しゃあない子やなあ……君も」


 居朗というのは馬亭の名前なのだろうか。

 とにかくその大男は、栞をベッドの脇に一旦置くと、身を起こしてその果てしなく広がる広大な背中を見せた。

 思わず石戸は、床の上で尻を少し後退させる。

 馬亭の背中には、目を覆いたくなるような深い切り傷の跡が……最大で20センチに至るものから、最小で5センチくらいのものまで……無数に刻み込まれていた。

 

「……んん」と、石戸の腕をしっかり抱いて眠っていた千春が声を出す。「……なんですか?」

「………あ、わ、わ……」石戸は慌てて千春の顔を庇った「……なんでもないよ……寝ててええからね……」

「ええやないか、石戸くん……千春ちゃんが見ても、何の問題もあらへん」馬亭が栞を膝の上に抱え挙げながら言う「……僕らがこれまで見せられてきたもんを、是非君にも見せてあげたいなあ……それに君、さっきその娘の口の中にぶちかましたとこなんやろ?」

「け、けだもの~………」馬亭の膝の上に抱えられながら、うっとりとした視線で栞が呟く「……あんたもしたいやろ……良かったらしてええねんで……千春ちゃんと」

「あっ……アホなこと言うな!!」石戸は思わず声を荒げていた。


 声を荒げたのはほんとうに何年ぶりだろうか?


 職場ではもちろん、そんなことはしない。

 どんなに店長にイヤミを言われようと、そのイヤミがいかに常軌を逸したものであろうと……石戸は常にそれを自分の中で消化し、怒りの種火さえこころに灯さぬ生き方の技法を、身につけているつもりでいた。

 それが自分のような人間に相応しい、賢い生き方であるとずっと考えてきた。

 

 まして、栞に対して……声を荒げる日が来るなんて、夢にも思っていなかった。

 しかし、夢にも思っていなかった状況が、目の前で繰り広げられている。

 

 栞が見も知らぬ男の体の上に抱え挙げられ、薄笑いを浮かべながら、股間からうすい糸を垂らしていた。

 男は栞をさんざん騎乗位で突き上げた後、なにかの荷物のように自分の傍らに置いて、傷だらけの背を向けている。

 そして栞は男の傍らで、粘液に湿った陰毛を晒しながら、石戸を嘲笑っていた。

 

 これが夢で、今この瞬間醒めたなら……どんなに素晴らしいだろうか?


「なんなんや……なんなんや、一体。いきなり人の家に入り込んで……人のベッドでそんなことをして……俺の……俺の……」

「俺の?」栞が首をかしげて笑う「誰が、“俺の”なんよ。いつからそうなったん?」

「石戸君には、学ばなあかんことが沢山あるようやな」男が顎を肩口から突き出して……あのぞっとするブルーの目で石戸を見た。「……おれら……いや、おれと、君と、栞ちゃんと、千晴ちゃんにとっては……たいへん素晴らしいことが今日起きたんや。これでおれらには、もう何も心配することはなくなった」

「……何がや? 君の言うてることがよう判らん!!」


「んん……」そこで、千晴の目がぱっちりと開いた。 

「あっ……」石戸が声を掛けるまでもなく、千晴がその細い体を起こす。

「うーん……」千晴は目をごしごしと擦り、目を凝らした。そのおかっぱの髪はくしゃくしゃに乱れ、四方八方に突き出している。「あ、馬亭……さん?」

「久しぶり、千晴ちゃん。元気やった?」馬亭があの冷たい顔に、精一杯(のように石戸の目には映った)優しそうな笑顔を浮かべながら声を掛ける。「……まあ石戸くん。つまりこういう事やよ……ここには近いうち、我々にとって……ああもちろん君にとっても、やよ。好ましからざる客がやってくることになっていた。そいつは強力な銃を持ってて……おれらみたいな逃亡者を殺害することに掛けては、世界一の腕前を持っている男や。そいつには心なんてまるでなくて……まるで二の腕に留まった蚊でもぱちん、と叩くみたいに、なんの躊躇もなく我々を殺してしまう。そんで、そいつはその後、少しも気分を悪うしたり、良心の呵責なんか……まああいつらに、良心、なんちゅうものがあったらの話やけどな……これっぽちも感じることなく、家に帰ってヨメさんとメシを食べて、セックスして、安らかに眠りに付く……なあ、いくらなんでもそれはひどいと思わへんか?」

「……逃亡者? 銃を持った男? ……なんの話や?」

「……そう、おれらは逃亡者で、殺される運命にあった。そして、君は殺されることはないけど……またこのシケた部屋での寂しい一人暮らしに戻る運命にあったわけや……」


 馬亭はそういいながら石戸の正面を向いて胡坐をかく。

 当然、そそり立つ巨大な陰茎の先端がこちらを向いていた。

 傍らに置いていた栞をひょい、と抱え挙げる。

 

「えっ……そんなん……いややわ……恥ずかしいわ」

「見せてやりいな……これから石戸くんも千晴ちゃんとシッポリ行かはんねんから……ちょっとした余興やがな」


 馬亭は栞の太股の内側に自らの荒野の岩石のようなごつごつした膝頭を進入させると……栞の両脚を大きく左右に開いた。


「い、いやあっ! ……こんなん……あかんって……ん……」


 柔らかい栞の脚の関節が、これ以上ないというくらい……無残に開かれる。

 当然、その中央に位置する栞の入り口も、ゆっくり左右に開いた。

 これまで何度となく栞と性交を繰り返してきたが……こんなえげつない光景を見るのは初めてだった。


 粘液の糸を左右に引きながら、ねっとりと開いた栞の入り口から、さらに新鮮な液が下に向かって一筋垂れる……その下では、馬亭の赤黒い亀頭が待ち受けており、まるで洗礼でも受けるかのように粘液をたっぷりと受け止めた。


 思わず石戸は顔を背けた。


「……ところが、おれらの共通の友人のご配慮のおかげで、その男がこの部屋にやってくることはなくなった。彼はもうこの部屋にやってこない……っちゅーわけで石戸くん。君も、おれらも……これからずっと、この部屋で枕を高くして、楽しい夢を見ていられることになった、っちゅー訳や」


 いきなり、馬亭が栞の身体を下に沈めた。

 

「ううんっっ!!」


栞がのけぞり、高い声を上げる。


 思わず顔を上げた石戸の目に、ゆっくりと栞の入り口が馬亭の巨大な性器を飲み込んでいく光景が飛び込んでいくのが見えた。

 石戸は思わず食べたカレーライスをもどしそうになった。


「あ……は……す、すごい………すっごいよう……」栞は目を閉じ、ぶるぶると躰を震わせる。「……あっ……なんか……届く……あんた、届いてまうって……」

「天使は焼け落ちた……」馬亭が栞の耳元で囁く。「……雷鳴の轟く岸辺………燃え盛る地獄の火……」

「あんっ……あかん……それ、それやめて……そんなんされたら………」

 栞は早くも腰を左右にゆすり始める。湿った音が石戸にまで届いてくる。


 石戸は自分の思考が、どんどん薄く、白くなっていくのを感じていた。

 いや、これはやはり夢だ。夢に違いない。


 その気になれば……この夢を強制終了させて、元の世界に戻ることが出来るに決まっている。


 で、元の世界ってどんなとこだ?


 栞と、千晴と3人でこの部屋で幸せにやっていく生活のことか?

 それとも、栞と二人きりで、この部屋で昨日までのように暮らしていくことか?

 それともその以前の、ひとりきりの生活に戻ることか?


 と、石戸は袖口を引っ張られ、振り向いた。


 見ると千晴が背後に立ち上がり、スカートの中に両手を入れ居ている。

 するすると、白い下着が彼女の青白い太股を降りていくのが見えた。


「石戸さん、あたしたちもしましょう……あんなこと」千晴は真剣な目で、石戸の目を覗き込んだ。「石戸さんだったら……あたし、すっごいことできちゃいそうです」

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