第24話 ウラジーミル・ボナコフ検査

 画面がフェードインすると、どこかの学校の教室らしい風景が映し出される。


 前面に黒板があって、並ぶ学習机。

 その一番後ろの席に、まだ15、6歳と見られるセーラー服姿の少女がぽつんと一人で座っている。

 教室には、彼女以外の人間の姿は見られない。

 

 彼女はウェーブのかかった肩までの髪を、しきりに気にしている。


 少しふてくされたような、困ったような表情だが、けっこうな美少女だ。 

 教室の窓からは夕陽が差し込み、彼女が髪をいじるたびにその光をうけて髪がきらきらと輝く。


 チャイムの音。


 少女は席に座ったまま。

 髪を気にしながら、相変わらずあの不機嫌そうな表情を崩さない。

 ……誰かを待っているのだろうか?


  恐らくそんなとこだろう。

 

 しばらく教室で髪をいじっている少女の映像が続く。


 やがて、ガラガラと音を立てて教室のドアが開き、一人の男が入ってくる。


 30代半ば、という感じだろうか。

 中肉中背のあまり特徴のない、冴えない男だ。


 男は肘パットのついたウールのジャケットの中にポロシャツを着込み、チョークにまみれたジャージのズボンを履いている。

 ひとめで彼の職業が教師であることがわかる。

 少しわかりや過ぎるくらいだ。


 男はニヤニヤ笑いながら少女に近づく。

 少女は男の顔をじっと見ているが、あの不機嫌そうな表情を崩さない。

 彼女が待っていたのはこの男なのだろう……それがわかったと同時に、男はなれ慣れしく少女の背後に周り、その肩に手を回す。


「栞ちゃん……まだ怒ってんの?」

 気持ちの悪い猫撫で声を出す男。

「……あったり前でしょ」

 少女がぼそりと呟く。いかにも機嫌の悪そうな声だ。

「だーかーらー…………しょうがないじゃん、お袋の具合が悪いんだから………絶対、ぜったい来週の日曜日には会えるって………」

「先週は……奥さんとお子さんと一緒に、遊園地に行ったんでしょ」

「……だっかっらー……来週は絶対大丈夫だって………ほら、そんな怖い顔しないで………ホラ」

 いきなりその男……妻子もちの教師が、少女の耳にキスをする。

「んっ………や、やめてよ……こんなとこで……」

「いーじゃん……誰も来ないよ、ほら」


 次に男はブラウスの上から、少女のやや膨らみ始めた胸を掴む。

「……や………ちょっと………やだ……やめてったら………」

「……なんか、息上がってきてない? ……千春ちゃん、興奮してるでしょ」

「………そ、そんな訳ないじゃん………やだ、ほんと、やめてったら………変態」

 

 男は少女の首筋に舌を這わせながら、右手でその胸をゆっくり捏ね、左手でスカートを捲り上げる。

 少女の青白い太股が、次第に露になっていく。


「……やっ………やだ……」


 男の左手がセーラー服の裾から、右手がスカートの中に侵攻する。


 服の中で男の手がもぞもぞと動くのが見える。


「………やめてっ………たら………」

「そんなこと言って、すっごく熱くなってるよ、栞ちゃん……」

「…………や、やめてったら………誰か来たら………」

「誰も来ないよ………ホラ」

「やっ!!」


 男は少女の身体をひょい、と持ち上げると、机の上へ仰向けに寝かせる。

 すかさず男の両手が少女のスカートの中に突っ込まれ、目にも留まらぬ速さで少女の下着が引きずりおろされる。


「やだっ………!!」

「ほら、もうべっちょべちょになってる………」

 

 男が少女の脚を開くと、その中に頭を突っ込む。


「いやあ……………あんっ!!!」


 スカートの中で男の頭がもぞもぞと動き……やがて湿った音が聞こえてくる。


「………ひっ………あっ………だめ………そこ………」


 机の上で仰向けになった少女の胸が、大きく息づく。

 夕日に照らされた少女の頬が、だんだん赤く染まっていく。


「ううんっっ………!!!!」


 少女の細い腰が浮き、上半身が弓なりに反り返る。


「ほら、気持ちいいでしょ………いつもよりすっごくなってるよ、栞ちゃん」


 スカートの中で教師が荒い鼻息と共に呟く。


「……け、けだもの……」恨めしそうな顔で少女が呟く。

「……そんな事を言う悪い子には、先生がおしおきだ」

 

 さらに男の頭がスカートの中で激しく動く。


「………いやあああっ………」少女の身体がまたのけぞる「……や、やめて」

「……ほらほら、身体は正直だぜええええ……」


 湿った音が最高潮に達したとき、突然……

 少女がその細い太股で教師の首を絞める。


「ぐっ………」男がスカートの中でくぐもった声をあげる。「ぐ、ぐげ……」


 少女が上気した顔を上げ、スカートの中でもがく男の頭を見る。


「……どう、先生、気持ちいい?」


 少女の前髪が汗でその額に張り付いているのが見える。


「ぐ……ぐぐ……………」

 

 少女はスカートを被った男の頭を両手で固定すると、さらに太股で教師の首を締め上げる。男の体がびくびくと痙攣をはじめる。


「気持ちいいでしょ?……ねえ、こうすると気持ちいいでしょ?」少女がぞっとするような笑いを浮かべる「………ほら、もっともっと締めてあげるね」

「ぐぐぐ………げ………」


 男は暴れるが、少女にがっちり固定されて動けない。

 少女はますます男の首をきつく太股で締め上げる………やがて、男の身体がびくびくっと震え………ぐったりと床の上に崩れ落ちる。


 男は死んだのだろうか?

 男の顔のクローズアップ……

 紫色になった顔が、泡を吹きながら白目を剥いている。


 少女は机の上で身を起こし、しばらく男の顔を見下ろしている。

 しかしそれに飽きたのか、机から飛び降り、足首に引っかかっていた下着を元通り履きなおす。

 男は床に倒れたまま、ぴくりとも動かない。


 やがて少女は男の死体(?)をまたいで、教室を出る。

 カメラも少女と一緒に教室を出る。

 


 夕陽が差し込む誰もいない廊下。

 ……少女がしばらく立ちずさんでいると、彼女の背後で奇妙な声がする。


 “メー………”


 少女が振り返る………と、廊下の向こうに一匹、真っ白な羊が居る。


 “メー……”羊はもう一度同じように鳴くと、もぐもぐと口を動かす。


 無表情に羊を見つめる少女……それにカットバックして、もぐもぐと口を動かす羊……。


 フェードアウト。




 ……膝の上の携帯用小型モニタに映し出された映像は、そこで終わっていた。


 ホテルのベッドに腰掛けて、額に3つの電極をつけられた姿で、出角はその一連の映像を鑑賞した。

 少し離れたソファに腰掛けている痩せノッポの“大阪府警のバウンティ・ハンター”は、やたら難しい顔で手元の計器を睨んでいる。


 計器自体は出角がいつも使用しているものと大差は無かったが……それにしてもこのコント映像はなんだ?



 デブノッポはブラスターを持った手をだらりと下げ、後ろから痩せノッポが計器を見つめているのを覗き込んでいる。


「……で、出角くん、これからどうなったと思う? この少女は?」痩せノッポが顔を上げて言う「……思ったとこを正直に言うてみ」

「……なあ、こりゃ、何なんや」出角は言った「……楽しい映像やったけど……これで……何がわかるんや?」

「……質問にだけ答えたらええねん」

 デブノッポが厳しい声で言う。

「さあ?……期末テストで一番になったとか?」

「………」痩せノッポが厳しい顔で計器を一瞥し、デブノッポの顔を見上げる「……どうも微妙やなあ………」

「なあ、このテストの名前は?」

 電極をつけられたままで出角が聞く。

「君。バウンティ・ハンターなんやろ?出角くん。知らんっちゅう事はないわな」

「“フォー検”は……?」出角がぶすっとして答える「……フォークト・ガンプフ検査……に掛けてくれへんか。とりあえずこんなわけのわからん検査はええから」

 

 怪訝な顔でデブノッポと痩せノッポが顔を見合わせる。


 「“フォークト……”何やて?」と痩せノッポ。

 「ガンプフ検査。口頭質問の回答時に表れる、瞳孔の収縮と呼吸、脈拍の変化でアンドロイドと人間を見分ける……って………なあ、まさかあんたら……知らん、ちゅう事はないやろ? ……アンドロイドと人間を見分ける、現在唯一の方法やろ?」

「……聞いたことあるか?」と痩せノッポ。

「いや、知らんな、そんな検査」とデブノッポ。「悪いけどな、出角くん。我々バウンティ・ハンターはこの検査……ランダム抽出された映像に対する鑑賞者の生理反応によってアンドロイドか人間を見分ける、『ウラジーミル・ボナコフ検査』を唯一の判別法として取り入れてて………その、フォーなんたら、なんちゅう検査に関しては……少なくとも僕らは聞いたこともないなあ」

「……ボナコフ?……ちょっと待てよ、おれもそんなん聞いたことないわ」

「……まあいずれにせよ、検査の結果は微妙や……これから君を府警本部に連行して、骨髄液の分析に掛ける……ええな?」


 ……額に貼り付けられた電極の下に、苦い汗が滲み出してくるのがわかる。


 “メー……”


 いや、正直な話……あの少女はあれからどうなったんだろう?

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