第15話 夢よ、ふたたび

 博士とンネイセ青年が言い合っているとき、天文台の上空で待っていたギャラクシーは、王子さまがあまりにも遅いので待つよりは探そうと砂漠の上まで飛んできていました。

 「あれっ!」、気がついた王子さまは空を見上げます。それから足音を立てないようにソロリソロリと二人から離れると、止めてあった家の影に隠れて博士とンネイセ青年の様子をうかがいました。二人は口を開くこともなく黙り込んだままで、王子さまがいなくなったことに気がつかないようです。

 そんな二人の様子を見て安心すると、王子さまは大地を蹴ってフワフワッと空に舞い上がります。舞い上がって二人の姿が豆粒ほどになると、今度は全速力でギャラクシーを追いかけました。

 あちらこちらと探しながら飛んでいるギャラクシーですから、王子さまは簡単に追いつくことができました。そして追いつくと、いっしょに飛びながら今日あったことをギャラクシーにこと細かく話ししていました。

「・・・。ゴメンね、ギャラクシー。これと言って、君に話せるような夢はなかったよ。夢と言うより・・・、なんだろう・・・。夢とはちょっと違うものしか、聞けなかった。」

「いいや、王子の所為せいではないさ。よき出会いが、なかっただけのことさ。しかし、わしはこんな寂しい星は御免被ごめんこうむるよ。サッサと、次に行ってみよう。そこに行けば、王子が言うようによき出会いがあるかもしれない。どうだね、王子。ここで時間を無駄にするより、もうひとっ走りしてみんかね。」

 今度は、ギャラクシーが催促さいそくしていました。

「そうだね。夢のいっぱい詰まっている素晴らしい星を、二人で探そう。そうと決まれば、早く早く。」

 なんとなく疲れてしまっていた王子さまも、ギャラクシーの催促さいそくに元気よくうなずいていました。

 金色に輝く衛星が夜空にくっきりと浮かび上がった頃、王子さまとギャラクシーは青い風の星をあとにします。夢を求めて、この星に来たときと同じように全速力で走り出していました。

 でも・・・、王子さまの心はのどに魚の骨が刺さったように、なぜか晴れません。こんなに美しい星の人たちが、どうして本気で夢を求めないのか? それが、分からなかったのです。もし、もう一度訪れることがあるのなら、夢で溢れていることを王子さまは心の中で祈りました。

 そんな王子さまとギャラクシーが走り出したとき、草原の端に止めてあった家では女の子が一人、窓にもたれて夜空を見上げていました。

「あっ、お母さん。見てみて、流れ星、流れ星よ!」

 多くの星が瞬く中、王子さまとギャラクシーは空の低いところを尾を引いて東から西へと走っていたのです。側にいたお母さんは裁縫さいほうの手を止めると、女の子といっしょに夜空を見上げました。

「あら、ホント! ねえ、ミキ。流れ星さんにお願いをしたら、素敵な夢がかなうのよ。あなたも、何かお願いしてみたら?!」

 女の子は、お母さんの顔を見ると大きくうなずきます。そして、慌てたように手を合わせ目を閉じると、何か一生懸命お願いしていました。


 桜の木は、大丈夫しょうか。それとも、また逆さになっているのでしょうか。王子さまは枝にぶら下がったまま、困った顔をしているのでしょうか。流れ星のギャラクシーは苦虫をかみつぶしたような顔をして、旅を続けているのでしょうか。

 夜露が、音もなく降ってきていました。それは、もしかしたら自分の重さに耐えきれなくなった星のため息かもしれません。そんな星たちは闇の中で時ににぎやかにささやきあい、時には喧嘩をして疲れればじっと黙り込みます。

 そんな星たちの太古のささやきを、地上でただひたすら待っている草や木は、遙かな闇に耳を澄ませると、いつ星たちの声が聞こえて来るのかと、今か今かと待ち続けているのでした。

 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ギャラクシーと王子様 ゆきお たがしら @butachin5516

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る