第14話 破れた夢
ンネイセ青年に問われるように見られても、王子さまには答えようがありません。結局、二人は同じように肩をすぼめ首をかしげていました。
砂にうつぶせになり博士が泣き言のかぎりを言っていると、
ンネイセ青年はオヤッという顔をすると、新聞に目を落としていました。そして、
「やっ、これは?!」
と叫んだきり、あとは言葉を続けることができません。
「う、うう・・・。あっ、あん・・・、おいおい・・・。」
ンネイセ青年の気持ちが分かったのでしょう、それから五十五分間二人は泣きとおしに泣きます。思いっきり泣いたので少しは気が収まったのか、しゃくり上げる声が小さくなると恨みつらみを忘れてンネイセ青年は博士の肩を抱いていました。
「博士・・・。」
しかし、ンネイセ青年の呼びかけに博士は答えません。
例によってすねているのかと思ったンネイセ青年でしたが、博士の顔をのぞき込むと瞳が宙返りしていたのです。気が
丸太ならまだしも、のびた人の体は大変です。重たい上にグニャグニャしていて、寝かすのも一苦労でした。そんな様子をじっと見ていた王子さまと博士を抱いたンネイセ青年を包むように、再び砂漠独特の焼けた風が吹き抜けていきました。
その風に空き缶が一つ、オンボロトラックの開けっ放しのドアから転がり出たと思うと、ホイールにあたってビックリするような音を立てます。
その音が博士の脳に届いたのか、宙返りをしていた瞳がピタッと止まりました。そして仰向けになったまま空を見上げていましたが、右を見て左を見て上に下にと瞳を動かすと、突然、
「やっ! 思い出したぞ、そうだそうだ。」
と金切り声を上げながら、王子さまをにらみつけていました。
「博士、どうしたのですか?!」
博士の様子が様子だったので、ンネイセ青年はひどく心配して聞き返します。そんなンネイセ青年を無視したように、
「この子は、空から来たんだ! そうだ、思い出したぞ。ンネイセ君、悪いがこの子を調べてもらえないか?」
と言っていました。
「えっ、空を?! バカなっ、博士は悪い夢を見たんですよ。新聞紙と、
言いながら、博士を何か得体の知れないもののように見ると、
「それに、調べろとおっしゃいますが、この少年のどこを調べるのです?」
ンネイセ青年は、あきれた顔をします。
「いいや、私は見たのだ。夢では、絶対ない。言っとくが、私は科学者だ! 少年がどうのこうのではなく、空を飛んだという科学的根拠が知りたいだけなんだ。」
そして博士はンネイセ青年の手を握ると、
「ンネイセ君、私たちは科学者だろう。空中歩行にしろ神隠しにしろ、すべてには科学的に解明できる根拠、またそれがトリックであればなおさらのことだが、とにもかくにも現象があれば引き起こす原因があるはずなんだ?!」
そこまで博士に言われると、ンネイセ青年も王子さまに視線を向けないわけにはいきませんでした。そして頭の先からつま先までジロジロと見ていましたが、もう一度、
「博士、大丈夫ですか?」
と、尋ねます。
「本当のほんと、私は見たのだよ。君は、私がおかしいと思っているみたいだが、本当なんじゃよ。」
博士がムキになればなるほどンネイセ青年は冷静な顔をすると、
「博士の気持ちは、よーく分かります。」
と言いながら、新聞の記事を指さしていました。続けて、
「この記事を読んだら、博士でなくったって誰だっておかしくなってしまいますよ。でも記事と、この子はまったく別ものなのですから、一緒に考えては少年が可哀想です。」
しかし、ンネイセ青年が何を言っても博士の気持ちを変えることができないようで、博士はムッとしたように、
「いいや、この少年は飛んできたんじゃ。ここに! まさに、ここに!」
と言いながら、足下の砂に印まで書いていました。さらに、
「ンネイセ君、君はどうやってここに来た? 歩いて・・・、違う。家に乗ってきたのだが、その間にこの少年と会ったかな? 会ってないだろう、それに・・・。」
と言って、また砂を指さすと、
「君の足跡はあっても、この少年の足跡はないはずだ!」
博士は確信を持って言い切ったのですが、先ほど新聞紙を運んできた猛烈な風に何歩か歩いたはずのンネイセ青年の足跡さえ消えていたのです。ンネイセ青年は、
「博士、見てのとおりです。」
博士の目が、飛び出ていました。そしてアングリと開けた口の下唇が、ガクガクガクッと何センチか下がってしまいました。
「博士、この少年が自分で飛ばないかぎり証明のしようがありません。僕は思うのですが、本当の発見とは自然界はもちろんですが、人も含めて出会いを感謝し素晴らしさに気づくことではないでしょうか?! 新星の発見だって単に見つけるというものではなく、素晴らしい出会いをしたい、感動をあらためて求めるためではないでしょうか?!」
博士はふてくされたように聞いていましたが、ポツリと言います。
「素晴らしい出会いを求めてだと、何を格好良すぎることを言っているんだ・・・。」
自分の考えが通らないからか、最後は独り言を言っていました。
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