第13話 ハゲタカ、死す

 ハゲタカは自分でも訳の分からないことを口走っていて、ヨダレを拭く暇もないまま目を回して口の閉まらなくなった毒ヘビの牙に、のどをつらぬかれていました。

「イテテッ、何しやがんでぃ!」

 そう言うと首に巻きついてきた毒ヘビを、毒ヘビも巻きつこうとして巻きついたわけではなかったのですが、蹴飛ばしながらンネイセ青年にがんを飛ばします。さらに、

「おっさん、おっさん! 何がなにやらどうにも分からん、食事の前のてんてこ舞いに何さらす。痛えじゃねえか、覚えてろよ。おお痛え、痛えたらありゃしねえ・・・! しかし、なんだな・・・。これがこの世の見納めなのか、楽しいことのほとんどない悲しい人生だった。はかない夢だぜ・・・。」

 どこかで聞いたような歌詞が混じるも今の気持ちを率直に述べていて、博士には大うけでした。

「おい、お前。年は何歳だ?」

 博士が尋ねると、ハゲタカが、

「オメエに、言われたくねえよ。」

と、我が身のことに精一杯なのに能天気な博士の態度で癇癪を起こし腹いせもかねると、思わず鋭い爪で毒ヘビの腹を切り裂いていました。

 切り裂かれた毒ヘビは、恨めしそうな目をするとグッタリとします。そうして一羽と一匹はもつれ合ったまま真っ逆さまに落ちると、ドタッと鈍い音を立てて地面にぶつかっていました。

 ハゲタカと毒ヘビの亡骸なきがらを、焼けた風が砂を巻き上げながらかき消そうとしていました。そんな一羽と一匹ですが、ンネイセ青年にも大変な一日だったので疲れたのか両足を曲げ砂に膝をつくと、砂漠独特の真っ青な空を背景に肩で大きな息をしていました。

 情けないのは、博士でした。腰が抜けたのか立ち上がろうにも立ち上がれずいずり回っていましたが、それでも砂に埋もれかかったハゲタカと毒ヘビのところににじり寄っていきます。

「ンネイセ君?! あれだけにぎやかだったのに、こいつら本当に死んでいるんだろうか・・・。」

と、おそおそる手を出そうとしていました。

「博士、ダメですよ。死んでるとは、まだ言えませんから!」

 ンネイセ青年の強い言葉に、博士は出した手を引っ込めます。案の定、グッタリとしていたハゲタカが薄目を開けるとかすかにニヤリと笑って、

「お願いだ、辞世じせいの句をませてくれ・・・。」

と、ボソリと言います。腰が抜けていた博士でしたが、どうしたことかハゲタカの言葉を聞くとゴソゴソッとどこかにっていって拾ったのでしょう、手にした棒でハゲタカを突いていました。

「さあ、め。聞いてやるぞ、わしもそこまでは悪党ではないからな。」

と言っていました。何という博士でしょうか、これでは弱いものイジメです。

さすがに突かれたハゲタカもムッとしたのか、

「アホウ!」

と言うと、二度と開けることのない目を閉じていました。一羽と一人のやりとりを聞いていたンネイセ青年ですがウンザリしたような顔になると、

「博士、その棒は?」

 博士の手にした棒を見て尋ねます。

「ああ、これか?! あの家から持ってきたんじゃ。」

 博士は、アッケラカンと言いました。するとンネイセ青年の顔色がサッと変わり、

「何という人ですか、あの家から勝手に持ってくるなんて・・・!」

 あきれ果てたンネイセ青年を、またまたなだめる博士でしたが、何を思ったのかひどく調子パズレの声を上げて、

「やっ、ンネイセ君。わしは、思い出したぞ。そうだ、あの新聞・・・。あの新聞を、君は読んだか?」

と、ンネイセ青年を振り返りながら言っていました。その振り返った博士の顔の、凄いことと言ったらありゃしません。充血した目は血と涙がいっしょに出てきても不思議がないほど見開かれて、口はといえば耳まで裂けたように大きく開かれ、今にも頭蓋骨ずがいこつがすっぽりと飛び出してきそうでした。

 これだけの迫力をだすことができたなら、仮にンネイセ青年が来なくても勝負すればハゲタカや毒ヘビに勝つことができたかもしれません。

 しかし、話を振られたンネイセ青年には、博士が何を言っているのかさっぱり分かりません。

「新聞が、どうかしたのですか?」

と、ポカーンとしています。

「あの新聞だよ・・・、あの新聞!」

 博士はいかにも悔しそうに足を組んだりほどいたりとバタバタしていましたが、最後には砂漠の底が抜けるほど地団駄じだんだを踏んでいました。

「ああ、この世にわしらほど不幸な人間がいるだろうか?! 神も仏もないぞよ、私たちは世紀末に遭遇そうぐうしてしまったのだ。ええい、ハゲタカも毒ヘビも大嫌いだが、何が嫌いと言って同業者だ。私の方が・・・、私の方がはるかに早かったのに・・・、世の中は言い出しっぺが勝ちなのか?! これが科学といえるのか、神よ彼奴あやつらに天罰を与えたまえ!」

 平気で、恐ろしいことを言い出していました。それを聞いたンネイセ青年は何か言いたそうに、また困ったように王子さまを見ています。


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