第12話 ンネイセ青年、王子様を救う

 博士は空から降りてきた王子さまを仕掛けでもないのかと、胡散臭うさんくさそうに上から下まで見回していました。見てはいましたが、いくら見ても少し大きめの服を着て乗馬用らしきズボンと膝まである長い靴を履いた、ただの少年にしか見えません。これといった仕掛けは、どこにもなかったのです。

 じっと見られていると誰でもそうでしょうが、気味が悪いというか照れくさくなるように、王子さまも気恥ずかしくなっていました。

「本当に、どうしたのですか?」

 言われても博士はうなるばかりで、しまいには空に手を向けると思わずハゲタカを指さしていました。王子さまも、つられて空を見ます。すると大きく羽を広げて頭から首にかけて毛をむしり取られたように赤い素肌の白い襟巻きをした黒い鳥が、ヒラリヒラリと羽をひるがえして舞っていました。

 王子さまが、

「あれっ、僕と同じようにマフラーをしている?!」

と言いますと、ハゲタカはそっぽを向いて、

「ふん、俺のはとれねええよ。」

と言いながら、ごちそうがさらに増えたことに気をよくしたのか、たまったつばを口からポタポタと垂らしながら小躍りしています。

「腹が減ったよ、もうたまんない。飯が要らねえ奴は別だが、俺たちはさっさと食事して、おねんねするのが一番さ。ウヒッ、ウヒヒ・・・。」

 生唾ももう飲み込めないと言った感じで、どうしようもない有様です。そして、ハゲタカの歌はドンドン変わっていきました。

「ほれほれ、ちょっと。あと、ちょっと・・・。」

 あまりにもハゲタカが上機嫌でにぎやかなものですから、博士に科学者としての心が戻ってきたのか、オヤッという顔つきになっていました。そしてよみがえった観察眼でハゲタカがしきりに視線を投げかけている場所に目をやると、そこには黄色と白と黒であでやかな模様をした毒ヘビがいたのです。

 博士は、ハゲタカに言います。

「おおい、ハゲタカ君。これは、何かね?」

「ああ、それはヘビだよ。足がついてたら、ムカデだろ。へっへっへっ・・・。」

 ハゲタカは、満足そうに言っていました。続けて、

「おい、ご老体。ウソと思うなら、触ってみな。イッヒッヒッ・・・。」

とも言うのです。

 ハゲタカは言葉巧みに、二人の視線を自分にくぎ付けにしていました。毒ヘビは、降り立った王子さまの足下まできています。そして長い体をグッと縮めると、おもむろに頭をもたげ裂けた口から毒腺を持つ鋭い牙をのぞかせて、今にも王子さまめがけて飛びかかろうとしていました。

「あぶない!」

 声と同時に毒をしたたらせて飛びかかった毒ヘビでしたが、残念なことに王子さまの足には噛みつくことができませんでした。できないどころか、ブンブンという音を立てて何度も円を描き宙に舞っていたのです。

 毒ヘビは回転しながらも王子さまと博士に噛みつこうとしてカチカチと歯を鳴らしますが、危険を察知した王子さまはフワフワと空に舞い上がります。あぶないのは博士でしたが、そこは昔取った杵柄きねづかで、体をひねって2回転半すると離れたところに逃げていました。

 じつは博士は過去に新体操をしていたので、見る人が見たら迫真の演技に拍手喝采だったと思われるほど鮮やかでした。

 それはそれとして、叫んだのはンネイセ青年でした。どうして、ンネイセ青年がここにいるのか? 不思議に思われる人も多くいると思われますので少し説明すると・・・、砂漠に一歩踏み出したンネイセ青年でしたが、歩いて行くのはとても疲れるし時間が掛かると思い、草原と砂漠の際までずり落ちていた家の人に事情を説明して家を借りるとやってきていたのです。

 キャタピラーなら砂漠でも簡単に移動できますし、何よりも博士への食料を運ぶ手間が省けます。そういうわけで砂埃を巻き上げ博士目指して一目散にやって来ていたのですが、どうしたことか博士の側にいる見たこともない少年に毒ヘビが飛びかかろうとしていました。

 爬虫類はちゅうるいにも精通していたンネイセ青年ですから、毒ヘビの動作で噛みつこうとしているのはすぐに分かりました。ンネイセ青年はヘビのすぐ背後まで来ていましたので、タイミングを計っていたヘビの尻尾をつかむのはたやすいことだったのです。

 飛び上がった毒ヘビの尻尾を間一髪で握りしめると、自分もかまれないよう猛烈な勢いで振り回します。ブン、ブン、ブブンと音がするほど勢いをつけると、空に向かって放り上げていました。

 あまりの速さに目を回した毒ヘビは、口を閉じるのも忘れて牙をのぞかせたままハゲタカめがけて飛んでいきます。

「ゲッ、ゲゲゲエ?!」

 驚いたのは、よだれらし食事の準備に余念のなかったハゲタカでした。

「オー、ノー! 逃げるべきか・・・? 受け止めるべきか・・・? 私はどうすれば良いのだ・・・、それが問題だ?!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る