第11話 王子と博士とハゲタカと毒ヘビ
ハゲタカが、毒ヘビにウインクをします。毒ヘビは「OK」というようにコクリと首を縦に振り、長い舌をだすとニヤリと笑っていました。二匹は、砂漠の真ん中で放心状態になっている博士を見つけていたのです。
博士の頭上でハゲタカは輪を描いて飛びながら、王子さまと同じように歌い出していました。
「明るい空には、明るい子が似合う。暗い地には、暗い子が似合う。明るい子は、腹ペコペコが似合うのさ。暗い子にも、腹ペコペコが似合うのさ。だから、空の子も地の子もタンと食べましょう。タンとタンと、腹いっぱい食べましょう食べましょう。」
その声に、博士は重いまぶたを上げていました。今度は新聞紙ではなくてハゲタカが、瞳の中に入ってきていました。寝転んだまま、しばらくは空をじっと見ていた博士でしたが、あまりのうるささにムクッと起き上がり砂の上にあぐらをかいて、ハゲタカをにらみつけるとすごい声で怒鳴っていました。
「ええい、う、る、さ、い! わしは死んでもいないし、お前の親戚でもないわ!」
しかし、博士がいくら憎まれ口を
「明るい空には、明るい子が似合う。暗い地には、暗い子が似合う。明るい子は、腹ペコペコが似合うのさ。暗い子にも、腹ペコペコが似合うのさ。だから、空の子も地の子もタンと食べましょう。タンとタンと、腹いっぱい食べましょう食べましょう。」
ハゲタカから毒ヘビへのウインク合図はバシッバシッと音がするほど激しくなっていきますが、歌は決して止めようとはしませんでした。
「明るい空には、明るい子が似合う。暗い地には、暗い子が似合う・・・。」
連絡を受けながら毒ヘビは長い首をもたげると、目をランランと光らせゴクッと生唾を飲んで舌なめずりをしていました。それから用心深く首を下ろし、それでいて大胆にサラッサラッと砂をかき分けて博士の側に寄っていきます。
毒ヘビを見ながらハゲタカの歌が変わっていきました。
「あと、ちょっと・・・。もう、ちょっと・・・。」
その時です。あと少し、もう少しと内心手を叩いて気持ちよく歌っていたハゲタカの耳に、別の声が歌いながら近づいて来ていました。
「い、い、か、げ、ん、な、博士、博士。い、い、か、げ、、ん、な、博士、博士。」
王子さまが、のんきに歌いながらやって来ます。王子さまを目にしたハゲタカは一瞬ギクリとしましたが、自分たちの企みには気づいていないのか、あまりにものんきそうなので「おお、よかったよかった」と大きな翼でホッと胸を撫で下ろしていました。
「獲物も目に入らないとは、なんというお気楽な鳥だわさ。あの調子じゃ、わしらの獲物は安泰だわさ。」
鋭いくちばしを開けると、目つきも悪くニヤリと笑います。
「い、い、か、げ、、ん、な、博士、博士。い、い、か、げ、、ん、な・・・。」
風に乗った王子さまは、フワフワとハゲタカのところに近づいてきます。それを見たハゲタカが高度を上げて王子さまをやり過ごそうとしたとき、王子さまの巻いていた白いマフラーが首からスッと離れて、博士と毒蛇の間に舞いながら落ちていきました。
「あっ、落ちちゃった。」
ハゲタカには気づかないまま、王子さまはマフラーを拾うため砂漠に降り立ちます。ハゲタカよりも、もっとビックリしたのが博士でした。人間が空から降りてきた、王子さまは人間そっくりだったので、さあ大変です。
「ウッ、ウッ、ウッ、ウッ・・・。」
まるで、動物でした。恐ろしい敵でも見たかのようにうなると、あぐらを組んだまま見事に後ずさりしていきます。科学者の端くれだったはずの博士ですが、もう捨て去るものがないほど動揺していました。
「ナンダ、ナンダ、ナンダ、君は?! いったい、どこから来たんだ?」
頭の中がグチャグチャなのか、支離滅裂なことしか言えません。そして、それがじれったいのか白衣の袖を指で握ると鼻をこすり、
「ウー、ワンワン。」
と言っていました。王子さまはキョトンとすると、
「ねえ、どうしたんですか?」
と、逆に聞き返していました。
「オヤッ、こいつは人間の言葉をしゃべるのか?! なんと、奇っ怪な」と思っても何をされるか分からないので声には出さず、しかしいつでも逃げられるように身構えていました。
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