第10話 博士、錯乱
そして新聞を読んでいる時に発声練習でもしているか、素っ
「あっ、いっ、うっ? ええっ・・・、おおっ。そっ、ん、なっ?!」
と、声をドンドン高くしていきます。
いちオクターブほど高くなったところで思わず咳き込むと、慌てて博士は貼りついている新聞紙をはぎ取り、余裕など何処にもないはずなのに朝のテーブルでコーヒーを飲みながらくつろいでいる人のように砂の上に広げていました。
紙面には一人の男性が満面の笑みを浮かべカラー写真入りで、デカデカと載っていました。その上、両手でピースサインまでしていました。
記事は、こんなふうに書かれていました。
『
と書かれていたのです。さらに、
『関山ひろし氏四十一歳は三十日未明、北経XXX度、東緯XXX度スカイツリー山脈上空のパンダ座付近で、同時に二つの新星を発見。この発見はハッピブル天文台により追確認され、新星ひろし一号、二号と命名される。』
とあったのです。
「三十日未明! 三十日未明? 未明・・・、未明未明?! ンネイセ君、今日は何日だ?」
いつものように叫び穴のあくほど新聞をにらみつけていた博士ですが、いくら待っても返事が返ってこないことに気づき頭から砂の上にヘタヘタヘタと崩れ落ちていました。
崩れ落ちた博士はあまりの悔しさに砂を食べながらも、突如ぴょんと立ち上がって一回転半、いつもの二回転半ではなく宙を舞いますが、元気なく落ちると、全身砂だらけになったまま
「ああ、わしの夢が・・・。」
と、寝転んだままは誰ばかることなく大声で叫びました。
「私が、私は二十九日に発見したんだ。二十九日と言えば、三十日の前ではないか?!。それなのに、それなのに私の夢が。二十九歳の私の夢が・・・。」
言い間違いにも気づかず、この世には神も仏もないといった風情でわめいていたのです。しかし、頭をかしげると突然、
「待てよ、まさか?! そう、二十九日は三十日の前? いや、後? いいや、前だったはず? おかしいな、どっちだ?!」
おかしいのはあんただと言いたくなるのですが、博士はドツボに
博士がンネイセ青年と別れ別れになって一人で壮絶な独り言を言っている頃、立派なおひげさんから逃げだした王子さまは、上から見ると本当に桶の底をすっぽり抜いたような壁を見ながらも、落ち込みそうな気分を変えようと草原の端までやって来ていました。
王子さまには飛んでくる途中で目にした光景、どうして家がゴトガタゴトと下っていくのか分かりません。そもそも家が何かを、知らなかったのです。
それはそれとして、何気なく下を見ると、一人の青年がダンプカーのような猛烈な勢いで
ンネイセ青年です。ンネイセ青年は草原にたどり着くと、そのまま両手と両膝を草の上につき肩で息しながら、
「なんという、博士だ・・・!」
と空にいる王子さまで聞こえるような声で、ありったけの文句を言っていました。それから、
「ええい、いまいましい。」
どうにも、腹の虫が治まらないみたいです。立ち上がると、まるで子供がするように草を踏みつけ砂漠の彼方をにらんでいました。
ところがどうしたことでしょうか、しばらくすると心配そうな顔つきになっていました。落ち着きを取り戻したようで、にらんでいた目つきが柔らかくなるとポツリ、
「博士・・・。博士は、どうするのですか・・・。」
でも、言い終わらないうちに頭を振り、
「知るもんか! あんな、いい加減な博士なんて・・・。」
またまた憎まれ口を叩くのですが、目は泳ぐように砂漠を見ていました。
空にいた王子さまは、聞こえてきたンネイセ青年の言葉を歌うように繰り返します。
「い、い、か、げ、ん、な、博士、博士・・・。」
王子さまには言葉の意味は分かりませんが、何か夢に関係があるように思えてなりません。そして王子さまが歌いながら風に乗ってフワフワと砂漠の方に飛んでいくと、何を思ったのはンネイセ青年は「ドッコラショ」と言って砂漠に向かって一歩踏み出していました。
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