ハックルベリーの独白(Huckleberry's Monologue)
あの
俺は心の中で呟いた。彼女の目が物語っていた。
一目見て首を吊った彩峰さんが自殺にしては不自然だと思った。それは、頸部の索状痕が物語っていた。
通常首吊り自殺の死体は、頸部の前方に索状痕が見られる。
しかし彩峰さんの死体は、首の全周に強く索状痕が残っていた。これは他者によって、ロープを首に巻かれて絞められた証拠だ。絞殺、つまり他殺体である。そして決定的なのは彩峰さんの首にあった
確かに彼女は部屋に一人で
これだけ聞くと、動機はどうであれ、いかにも
また、死後硬直も始まりかけているようだった。ここは長野県の高地でまだ九月とは言え深夜、早朝はかなり涼しい。死ぬ直前まで死神に扮していて、『参加者を襲う』という運動をしたのなら、硬直が早めに始まっていてもおかしくないのかもしれないが、それでも今さっき死亡したにしては幾分早すぎる気もする。
そんな俺の疑念を察知したのか、『タチカワ』さんは俺に歩み寄ってきた。犯人に悟られないように注意を払いつつ、俺にコンセンサスを求めてきたのだ。俺自身は法医学のプロではないが、病理医である。病理医は顕微鏡で標本を観察して、悪性像の有無を判断するイメージが世間的には強いかもしれないが、それ以外に
多くの参加者は、きっと彩峰さんが犯人であって欲しいと思っているはずだ。連続殺人の終焉を願っているのだ。俺だってそうだ。これ以上被害者が出るなんてこりごりだ。
しかし、状況が待ったをかけている。『タチカワ』さんもそれに気付いているようだ。全員が初対面で、何者かによって一見無差別に殺害されていく地獄絵図。彼女はこれに法則性を見出そうとしている。それどろか、あのいろいろ思案している真剣な瞳は、ひょっとしたらもうかなり真相に近いところまで突き止めているかもしれない。不覚にも俺はそんな彼女を美しいと思った。
「皆さん、あのちょっと、良いですか。彩峰さんは自殺ではありません。犯人は別にいます!」
『タチカワ』さんは口を開いた。
とうとう、真の事件の終焉を迎えるときが来たようだ。
彼女の語る真相を静かに見守りながら聞いてみようと俺は思った。
◆◆◆◆◆◆◆◆
ハックルベリー(Huckleberry)
アメリカ北西部、ロッキー山脈に自生する。ツツジ科Gaylussacia 属。アメリカではこのハックルベリーと小粒の野生ブルーベリーなどをまとめてハックルベリーと総称してよんでいるが、実際はハックルベリーという固定種が存在する。ハックルベリーとブルーベリーの大きな違いは種子と皮。ハックルベリーの種子は10粒前後でブルーベリーの種子より大きめで硬い。ブルーベリーの種子は小さく数も多い。皮はハックルベリーの方が堅く厚い。ハックルベリーの色は黒い藍色。またクマの大好物で山にハックルベリー摘みに出掛ける時は足元とクマに注意といわれるほど。味や用途はブルーベリーとほぼ同じで、ブルーベリーを使うレシピで、ハックルベリーに置き換えることもできる。
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