シルバーベリーの独白(Silverberry's Monologue)

 私から不純物を落とさなければ。

 私はただそれだけを考えた。異物を浄化したくて仕方がなかった。

 別に私はこれと言って潔癖性というわけではない。

 心を許した者どうしならハグだってできるし、回し飲みだってできる。

 しかし、そうでない者の場合は、途端に私の中で結界が形成される。

 それは異性に対して発生することが多い。そのことは自分でも重々理解しているつもりだ。

 死体を目前にしたのはこれで三回目だ。二回目は『ストロベリー』である。あれは谷底深くに落ちていたので、目前と言っても物理的な距離は保たれていた。まみれの死体を見るのは、精神衛生上良くないに決まっているしショックなことだが、私の中で浄化が必要なレベルではなかった。あれだけ離れていれば血の臭いだって感じられなかった。

 つまり、距離的に間近で死体に直面したのは二回目ということになる。『ストロベリー』はカウントされない。

 そう。はじめて私が死体を近くで見たのは、あのときだった。忘れもしない。

 高所から転落して強打したにもかかわらず、その遺体は不思議なほどに損傷が少なく綺麗に保たれていた。後々になって考えれば、納棺師ができる限り見栄えを整えてくれたに違いないのであるが、それでも本当にこれが転落死の遺体かと目を疑う程だった。もともと彼女は美しかったが、血の気が引いて色が白くなった彼女は、皮肉な程にますます美しさを私に見せつけた。

 あのときは、今回みたいに浄化を要するような、むずがゆさなんて起こることはなかった。その理由は明々白々だ。

 でも、受け入れられない者の場合、こんなにも身体中が痒くなるなんて。しかも『ラズベリー』は血を流していないにも関わらず、だ。うがいだけでは、どうにもなりそうもない。

 私はこの身体ごときよめてもらいたかった。身体中にへばりついたおりを除去してもらいたかった。

 そうだ。あの人のところに行こう。彼女なら私を受け入れてくれるだろうか。

 でもその前にやっておきたいことがあるのだ。私には。


◆◆◆◆◆◆◆◆


シルバーベリー(Silverberry)

 日本名は茱萸グミ。グミ科グミ属。樹高2~3m。日本では秋に熟すアキグミが一番美味しい。春に熟すマルバグミ、初夏に熟すナワシログミ、ツルグミ、夏に熟すナツグミ、大型実のトウグミがある。生食、ジャム、果実酒に良い。

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