1話

私が暮らす現代日本というものは、優しくも残酷な世界であると思っている。少なくとも私にはそう思える。

 エッセイのたぐいを読んでいたから、やけに感傷的になっているのかもしれない、と片足で水を蹴った。


 家の近所にある小さな小川は、常に冷たい水が流れていて暑い夏、涼むにはもってこいの場所だ。

 私のお気に入りの場所の一つで、暑くて仕方がない日、両足を水に浸けて本を読むのが涼しくてたまらない。


「今日も、嫌になるくらい暑いから」


 私は、夏が嫌い。

 生まれつき色素の薄い私は、強い日差しに当たると肌が火傷のように赤くただれてしまう。だからこそ家族が気を使って片田舎に引っ越してくれたのに。


「山の麓でも、暑いのには大して変わりない」


 別に元からそこまで都会に暮らしていたわけではないけれど、だからこそ引っ越す必要があったのかと疑問に思う。

 加えて田舎の閉ざされた空間では転校生は異質な存在。私の場合、色素の薄い容姿も相まって、更なる好機の目線に晒された。


「……嫌なこと、思い出した」


 幼い頃から感じていたからこそ、苦手な他人の目線。今では慣れてしまったけれど、それでもあまりいい気はしないそれ。

 ただ、この地域に暮らす人達は皆大らかなのか、気にしないのか、あっという間に不躾な視線を向けられることはなくなった。……憧れのような、キラキラとした視線は時たま感じるけれど。


「まあ……友達ができて悪い気はしない、かな」


 ほんのりと頬が熱くなる。

 高校生にもなって友達ができて嬉しいとか、ちょっと照れくさい。

 赤くなっているだろう頬を隠すように、膝においていた本を開いた。


「続き……続き……」


 足をゆったりと揺らしながら、物語をなぞる。

 小川の音は心地よいBGMとなり、読書を邪魔することはない。

 先程まで読んでいた場面を思い浮かべれば、あっという間に意識は物語へと飲まれていった。

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迷子の少女と玄武さま 夜兎 @yoruusagi925

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