王子様は白馬に乗ってやってこない
ダフネ
第1話 ダディダンダン
ユーミンは高校生だった私の大人の恋のバイブルだった。
当時付き合っていた男子はラグビーをやっていて、二人で行った夏の逗子マリーナのコンサートではノーサイドに涙した。
冬になれば冷たい海でサーフィンをする男にも憧れた。冬は寒くてかなわないと言うのもあったが実際はサーフィンをやっている男に知り合いはいなかったから、恰好だけ、ストレートの髪を伸ばしタンクトップにサブリナパンツ。fineを読んで一生懸命日焼けした夏の間の丘サーファー。そう言えば、あのfineて雑誌は当時チャラい代表みたいな雑誌だったけど、今ではロン・ハーマンなイメージで新創刊されているらしい。
クリスマスはロッジで過ごしキャロルを口ずさみたかったが、冬休みはバイトに明け暮れ日帰りスキーが精いっぱい。当時はまだスノボは流行っていなくてもっぱらスキー。ある日水上でリフトが故障し停止したリフトの上でぶらんぶらん風にゆられながらスキー場を流れるユーミンの歌を聴いた。
いつかオープンカーに乗って中央フリーウェイをぶっ飛ばし、冷たいけれど綺麗な横顔で運転する彼とずっと一緒に居られるのだと夢を見る。けれど当時はみんな親からの借り物の車に乗っていて、大概はセダンだったし、親に怒られるからとなかなか遠出もできなかった。
もしも男に振られた時には、再会したら私を捨てたことを後悔するような綺麗な女になってやろうとユーミンに誓い。だけどそのころしてた、未成熟な恋は大概相手を嫌いになって別れたし、二度と会いたくないのがだいたいで別れた相手にバッタリ会ったりもしなかった。中学の頃好きだった同級生に町でばったり会った。中学の頃の私はその子よりだいぶ背が高くて、朝礼のあとだったか教室に帰る途中で私のクラスメートの男子が「こいつお前のこと好きなんじゃね?」と私が好きだった男子に私を指さして言った。それくらいわかりやすかったんだろうけど。とっさに否定しようとしたら「こんなデカい女俺すきじゃなぇし」と返された。「そりゃこっちのセリフだわ。あんたみたいなチビ好きなわけないでしょ!」と口走っていた。小さいことを気にしていた彼の傷ついた顔を覚えている。その彼にばったり出会った。テレテレのTシャツと切りすぎた前髪の私。気が付かないでくれと思った時奴の声は聞こえてきた。「お前相変わらず俺よりデカいのな。」違う!お前が小さいんじゃい!
もしも私が振った男が別れたくいないと泣いたらこう言おう。許して。いつか許してね。私を忘れるころ。
ユーミンの書く恋はいつもきれいでスマートなわけじゃない。ジタバタする恋もあればスマートに見守る恋もある。大人になればユーミンが描くような恋が出来るのだと思っていた。骨まで溶けるような恋だったりあるいは蒼いエアメールのように遠くからお互いの幸せを願うような。大人の恋はそういうものだと思っていた。
「霧雨で見えない」を聞くと思いだすことがある。懐かしさにぼんやりバスを降りた橋の上霧雨の水銀灯・・・・探しはしないと誓ったすぐ戻ると信じた・・・これは一人思い出の場所で彼を思う設定だ。だけど私の頭に浮かぶシーンは違う。ムー一族を覚えているだろうか?あのドラマの中で、清水健太郎と司美穂がしのび逢うシーンがある。なぜかいつも霧の中で二人ともトレンチコートを着ている。そのシーンと次いで由利徹の滑稽な表情が浮かんでくる。切ない歌がちっとも切なくない落ちを迎えるのだ。ちなみに私が「霧雨で見えない」を歌うと夫は決まって「霧雨だ。濡れて帰ろう」と言う。月形半平太のあまりにも有名な台詞らしいが正しくは「春雨だ。濡れて参ろう」らしい。夫がギャグで言っているのか、間違えて言っているのかは定かではない。
朝の情報番組のコーナーだったと思うのだがユーミンが詩はすべて経験談なのかという質問に答えていた。「そんな経験していたら生きていけないよね」と笑っていた。ユーミンは私のカリスマだけど、一人の普通の人間だった。前後にカゴのついたママチャリで買い物にも行くし、地下鉄にも乗る。普通のおばさんで、私たちと変わらない日常も送る。そんな中で詩を作るのだ。やっぱり普通じゃないのだ!「ユーミンは天才なのだ。」
ユーミンを聴いて切ない恋をした。ユーミンを聴いて夏の海に行った。ユーミンを聴いてゲレンデに行った。そこここにユーミンがいた。熱い恋はもうなかなかしないかもしれないけれど、今でもユーミンの世界に涙し共鳴する。そうだ今日は「DA・DI・DA」を聴こう。ダディダンダン・・・
王子様は白馬に乗ってやってこない ダフネ @makoto-ang
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