04 緋月の能力

 緋月がこの世界に来てから五日がたった。俺の異世界生活ももう十一日目になる。そして……綾ちゃんがこの世界に来てからは十六日の月日が経過していた。


 異人会が被召喚者の面倒を見てくれるのは基本一カ月。期限は少しづつだが、確実に近づいてきていた。


 もちろん緋月が来た後も何もしていなかったわけではない。だがこの数日は主に緋月の面倒を見ることでつぶれていた。



 そして五日目の今日は、緋月を傭兵ギルドへと連れていく。


 ギルドに魔力を測る装置があったからだ。ギルドの魔力測定装置は魔法の適性なども見ることが出来る。緋月に測定を受けさせる一番の理由はそれだ。


 俺は緋月の能力について二つの可能性を考えていた。一つはもちろん、緋月が俺と同じ能力に目覚めやがった可能性だ。そしてもう一つは……文字通りに緋月が人の能力をパクる能力に目覚めた可能性である。


 もし後者ならとんでもない能力ではあるのだが緋月ならあり得ると思えた。その辺の疑念もあって一度調べておきたかったのだ。


 魔力測定の結果、まず緋月の魔法の適性が分かった。こいつ……普通に属性魔法の適性があったようだ。


 ちなみに俺は戦士系で、身体能力を強化する強化魔法の適性があった。そして銃撃強化能力も性質的には強化魔法の一種だ。


 だから俺は自分にあったユニークスキルに目覚めたと言えるわけだが。この時点で緋月には銃撃強化能力の適性がなかったことが判明したわけだ。


 そして問題の緋月の能力だが……これも他人の能力を覚えるようなトンデモ能力ではなくやはり俺と同じ能力だったみたいだ。こっちは実験して確かめたりもしたので間違いない。


「こういうことは意外とあるんですよ」


 ギルドのお姉さんが解説してくれた。


 まず適性のない能力に目覚めることについて。これは被召喚者によく見られる事例だそうだ。


 魔法には色々な種類があるが全てが戦闘系技能というわけではない。被召喚者についても同様で、戦闘系以外の魔法に素養のある人間が飛ばされて来ることもある。


 だがそのような人間でも召喚直後に危険な目にあうと戦闘系技能に目覚めることがあるそうなのだ。……魔物に襲われた時に非戦闘技能に目覚めても役に立たないしな。


 だがこれは良くないことなのだそうだ。能力には目覚めても適性がないことには変わりがないからな。そういう能力に目覚めてしまうと本来のポテンシャル以下の力しか出せない。


 そのため理想としては被召喚者が危険な目に合う前に保護し、適性を見定めた上で本人が明確な意思を持って能力を発現させるのが望ましいそうだ。


 俺の周りで言えば綾ちゃんがその道を進んでいた。綾ちゃんはまだ能力と言う能力に目覚めてはいない。錬成術の才能がありそうだとは言われているが。



 そして問題の緋月だが、こいつは飛ばされた途端に命の危機にさらされたために本来適性すらない銃撃強化能力に目覚めてしまったのだそうだ。


 近くにいる人間と同じ能力に目覚めるというのも意外とよくあることらしい。なんて言っても目の前で能力を見ているわけだからな。無数にある他の能力に目覚めるよりも確率は高くなるのだそうだ。


 だがここで悲観する必要もないらしい。この世界の魔法は一度目覚めると二度と修正が効かないような物ではないとのこと。適性が分かったのなら普通に乗り換えればいいのだ。


 つまり今からでも適性のある属性魔法を習得すれば、緋月は魔道士としてやって行くことができるとのこと。


 これにて一件落着である。俺も銃使いが再び一人だけとなって大満足だ。……俺は心の底からそう思っていたんだけどな。


「別に適性がないまま能力を使い続けることも出来るのだろう?」


 緋月が馬鹿なことを言い出す。適正とか関係なく俺とキャラが被るから使わないで欲しいのだが。しかしここでパンネまで余計なことを言い出した。


「もちろん適性に従わないといけないなんてルールはないわ! それにユニークスキルだしね! 考えてみればせっかく珍しい能力覚えられたんだから捨てるなんてもったいないわよね!」


 パンネはかなりの銃マニアだ。だから単純に銃撃強化能力をいいものだと思っているのだろう。それには俺も同意する。


 でも銃使いは俺がいるんだから二人はいらないと思うんだけどな。だがそう思っているのは俺だけのようで綾ちゃんまでが緋月側だった。


「私も緋月ちゃんは銃使いでいいと思うよ。かっこいいと思うし。緋月ちゃんと薙阿津さんが一緒に銃を撃ちながら戦場を駆ける姿、私も見てみたいです」


 綾ちゃんの中にどんな映像が浮かんでいるのかは少し聞いてみたい気がする。


 いずれにせよ俺に味方がいないことだけは確かだった。エレーニアは緋月に属性魔法を教えたがっているようにも見えたが。


 だが多数決的に勝てる見込みもなく緋月は銃撃強化能力を使い続けることに決めてしまったようだ。


「正直に言えば私は最強を目指してもいないからな。戦闘技能自体をあまり重視していない面もある」


 重視してないなら普通に属性魔法にしてくれと俺は本気で思った。だが一から属性魔法を覚えるよりは既に覚えた能力でいくのが楽なのも事実。


 そして緋月が上の人間になって戦闘をしないのなら銃撃強化能力を使う機会も減るわけで、俺もしぶしぶ緋月の能力を認めることとなった。


 緋月の異世界生活五日目はそんな感じで過ぎていく。

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