03 薙阿津、職業に悩む

 緋月の部屋を出た後、俺は傭兵ギルドへと足を運んだ。


 だがギルドで受けられる依頼一覧を見て俺はため息をつく。やりたいと思える仕事がまったくないのだ。


 この世界は地球からの影響を大きく受けている。それなのに傭兵ギルドが存在することについて最初は素直に喜んでいた。だがギルドの内情は俺が期待するものとはだいぶ違っていたのだ。



 まず任務。薬草採取とか魔物退治とかそういうファンタジーな依頼がほとんどない。一番多いのは警備任務だった。


 どこぞのお偉いさんが来るから付近を警備する。街の外に淡水化プラントを建設するのでプラントを建設する間魔物が近寄ってこないよう警備をする、などだ。


 後者なら魔物が出現すれば戦闘できるが、プラント完成までただ突っ立ってるだけで終わることの方が実際は多いそうだ。



 そして、傭兵団。これが地球からの影響で残念な形に変貌していた。傭兵団の企業化が進んでいたのである。


 つまり民間軍事会社だ。会社なんだから社員が勝手に仕事を選ぶことなどできない。他にも様々な制限がかかることが容易に想像できた。


 そもそも俺が傭兵になろうと思ったのは自分で依頼を選べると思ったからだ。だから民間軍事会社に就職する気にはなれない。


 だが傭兵ギルドの仕事は現状この民間軍事会社を中心として回っていた。


 戦闘が必須となるような大きな仕事は基本的に指名依頼となっているのだ。異人会が傭兵を雇う場合もそうだ。


 基地局設置のために傭兵を雇うにしてもそれをギルドで公募したりはしない。危険な任務ほど素性の分かる信頼できる相手に依頼するのが通例なのだ。


 サケマグロの森での任務に俺が参加できたのも、パンネが俺を信頼して指名してくれたからに他ならない。


 この世界では張り紙を見るだけでは魔物退治の依頼にありつくことさえできないというのが俺の結論だった。



 職業選択を誤ったかも知れないとも思う。



 だが異人会の被召喚者捜索部なども普段から戦闘をしているわけではない。基本は待ちなのだ。


 召喚者が現れたという連絡を受けて初めて任務が発生する。その上で救助任務に必ず戦闘がつくようなこともない。


 俺や緋月はレアケースらしいからな。綾ちゃんの時には周りに魔物もおらずスムーズに救助ができたそうなのだ。


 その被召喚者自体もこの世界のどこに現れるかは分からない。ニムルス国内に毎日誰かが来るわけではないのでやはり待機時間の方が長いのだ。その待機の間に基地局設置などをしたりするから待機中の方がむしろ戦闘が多い気もするが。


 だが結局、戦闘が主任務というわけではないのだ。



 戦闘の頻度で言えば、国連機関では環境計画の未開領域管理局が一番多い。ただここも未開領域内を毎日探索したりするような部署ではないそうだが。それでも管理局については一度調べてみる価値があるかも知れない。


 その管理局に所属するアイシスさんは明後日にはここに来るという話だ。未開領域管理局についてはその時話を聞いてみたいと思う。



 その前に明日にはパンネの兄である太郎さんもやってくる。太郎さんはアイシスさんよりさらに上のEXランクを持つ人だ。被召喚者捜索部の中でも太郎さんは戦闘任務を数多くこなしているとも聞く。


 こちらもくわしく話を聞く必要があると思われた。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 そして二日が過ぎる。もちろん太郎さんにもアイシスさんにも話は聞いた。


 だが戦うのが目的ならやはり傭兵で間違いないと言われた。傭兵なら被召喚者捜索部、未開領域管理局、この両方から依頼を受けることも可能だからだ。


 そして普段の書類仕事などを受け持つ必要もない。


 さらに言えば、強くなりたいのなら実戦だけでなく訓練をする方法もある。傭兵としての仕事がない期間は修行に費やせばいいとのこと。


 結局職業選択そのものは間違いではなかった。だがこの二人と話が出来たのは本当に良かったと思う。



 他の収穫もあったしな。太郎さんもアイシスさんも俺の力を高く買ってくれていたのだ。



「パンネがエレーニアさんを担いで遅れる中、君がマグロードを倒してくれたという話はもう何度もパンネから聞かされている。僕自身、君のことは妹の命の恩人だと思っているんだよ。そんな君が仕事を欲しいというなら積極的に紹介したいと思うさ。僕自身も君と組んでみたいと思うしね」


 というのが太郎さんの言。



「……私も薙阿津さんは弟の恩人だと思っています。……マグロードに限らずロード種は強い。本来なら、私や太郎さんが相手をしないといけないレベルです。……Cランクに上がったばかりのシンが生き延びられたのは奇跡に近い。実際……弟はマグロードの腕が迫って来たとき死を覚悟したと言っています。……生き延びられたのはあなたが援護してくれたからだと」


「……それに私も薙阿津さんの能力に興味があります。未開領域管理局の仕事は領域を管理することでむやみに魔物を倒すのが仕事ではありません。その際に……狙った敵だけにダメージを与えられる銃撃能力は役に立つはずです。私は魔道士で単体攻撃は苦手ですから。薙阿津さんには近いうちに……こちらから仕事を依頼することもあるかと思います」


 というのがアイシスさんの言だった。



 サケマグロの森での戦いは誰が誰を助けたなんてないと思っている。全員がそれぞれの役割を果たしたからこそ、皆生き延びられたのだ。


 だから太郎さんやアイシスさんに妹や弟の命の恩人と思われるのは複雑だ。だが仕事をくれるというのは素直に嬉しい話だった。



 現在の傭兵界は指名依頼がメインとなっている。だから指名してくれるクライアントを持つことが大事であった。


 その依頼主として、俺は被召喚者捜索部と未開領域管理局、この二つと繋がりを持つことに成功した。数ある国連機関の中でも一、二を争う武闘派部局とである。



 傭兵としてやっていくためのひとまずの地盤は出来たと言っていいだろう。

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