第13話 オウロの決断
「……そうか、第一王女であるヴィクトリア様とお友達に」
「はい!」
明るく返事をするユゥンに、竜人郵便局速達一課課長であるオウロは思わず頭を抱えた。
帰局するなりドゴンに引っ張られてユゥンが課長室に入ってきた時にはまた何かやらかしたのだろうかと身構えたが、これまでとは質の違う問題に思わず抱えてしまっていたのだ。
「あの、大丈夫ですか課長? 体の具合が悪いならお医者さんに行った方がいいですよ?」
「いや、大丈夫。具合が悪いわけではない」
自分を気遣うユゥンの優しさが嘘偽りない事は分かっているが、それだけに余計に頭が痛くなりそうなオウロである。
もっと悪意を持ってやっているならこちらも遠慮なく苦言を呈するというのに、完全に悪意がない上に実績も悪いわけではないとすれば、面と向かって怒るに怒れない。
「……ドゴンさん」
「俺は知らん」
そっぽを向くドゴンの気まずい横顔を見る限り、彼もこの一件を悪いとは思っているようだが、自分ではどうしようもないとも分かっているようだった。
「……ふう、ユゥン」
「はい!」
「それで、友達になったヴィクトリア様から、今後も手紙を任せたいと言われたと?」
「はい!」
無駄に元気なユゥンの返答を聞きつつ、オウロはこの一番の頭痛の元について考える。
王族の手紙を直々に頼まれる。
それは一郵便局員ではあり得ない大任、ともすれば国を左右させかねない重要な役割である。
それが自分の部下から名指しで選出されたというのは誇らしいのだが、なにせあのユゥンである。
郵便は確実に届けるのだが、その前後でのトラブル発生、いやトラブルに首を突っ込む率はダントツに高い当局の問題児。
信頼出来る一方で不安もあるこの若き局員に国の文書を預けるなど、オウロからすれば王族相手でも考え直してくれと直訴したいくらいだった。
「……ユゥン」
「はい!」
「君は、どうしたい?」
「私は頼まれたのなら、どんな手紙も届けようと思います!」
またこいつは勢いで、と思ったオウロだったが、
「……」
ユゥンの目が真剣を色を帯びているのを見て、少しばかり考えが変わり始めた。
トラブルはあれ、ユゥンは郵便は確実に届ける。
多少の遅れはあれど、配達出来なかった事は他の局員と比べても皆無に等しい。
なにせ彼女は誰よりも手紙の重さを知っている。
手紙が届くという事、手紙が届かないという事。
それを一見能天気そうな彼女は、よく知っている。
村の少女の手紙だろうと、国の王女の手紙だろうと区別なく、必ず届ける。
それが、ユゥンという郵便配達員だ。
「……分かった」
オウロはまだ頭痛の残る頭をゆっくりと上下させた。
「勅命があった際は必ずそちらを優先させる。何かあって責任を取る際は、私も共に咎を受ける。それが条件だ」
「はい!! ありがとうございます!」
「おいオウロ、お前……」
元気のいい返事をするユゥンを尻目に、戸惑うドゴンにオウロは頷いた。
「いいんですドゴンさん、私なりに、覚悟を決めましょう」
どっちにしろ王家の依頼を断ることは出来ない。
人間の王族の頼みを竜人が断ったとなれば、それがきっかけでまた人間と獣人の諍いが、最悪また戦争になりかねない。
杞憂と言われればそうなのだが、気楽に考えることもまだできない時期なのだ。
まったく、かつての英雄の——いや恩人の娘とはいえ、数年前にやっとこの竜人郵便局速達一課課長になった自分にそんな重責を負わせないでくれと、オウロはまた頭を抱えそうになったが、
「課長! 私、頑張ります!」
天真爛漫な笑顔を浮かべるユゥンを見ていると、まあ何とかなるかなとも思えるので、本当に困った子だとオウロは苦笑するのだった。
どーも、竜人郵便です リュウ @dragon88
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