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テストは、なんてことのない内容であった。それよりも、テスト後、健が芦田さんに対して必死に質問をぶつけているが、芦田さんは困惑している様子だった。
昨日、帰ってからというもの、健は夜遅くまで起きて机(といっても、布団のないこたつであるが)に向かっていた。広げられていたのは、参考書ではなく、漫画という名の本であった。絵柄の模写も入れながら、みっちりとノートに文章を書き込んでいく。漫画の方も、いつの間にやらモノクロの本は、蛍光マーカーと付箋に彩られた極彩色の世界へと変わっていった。
その、別のモノへと生まれ変わった漫画なるものと、書き込まれたノート、そして健の質問攻めに気押しされた芦田さんは、
「何、なんなの」
と言うだけで、健の求める回答に至る入り口にすら立ち入れない様子であった。
そこへ、男性教師がやってきた。
「そこ、漫画の持ち込みは禁止だぞ!」
だが、その漫画とは言いがたい容姿となった本を見て、教師は態度を一変させる。
「なんだ、参考書か。ごめんな。先生、最近、目が遠くなったみたいで。失礼した」
そう言って、立ち去る。
「あーしださん、よーしいくん。」
入れ替わるように、沼田さんがやってきたのだった。彼女は、明快かつ、健の求める回答をもってやってきたのだった。
「それ、単にカッコいい男と一緒に居たい、という女の子の恋愛感情を描いただけですよ。アイドル追っかけるのと全く同じ。思慮に基づいた深い意味なんてありませんよ」
それを聞いた健は、本をまじまじと凝視したかと思うと、
「そ、そんな文化もあるのか」
と驚愕の声を上げた。
「カッコいい、というのがあまり概念としてよくわからないが、女の子はみんな、その、カッコいい、男と一緒にいたいのか」
「ええ、まぁ」
あまりにも小さく不明瞭な声で、肯定の言葉を口にする。
「カッコいい、とは小田みたいなのか?」
「なんでやねん!」
さすがに、手は出なかったものの、相手が小田くんであれば確実に修羅場と化していた情景であろう。
「いや、いっつも一緒にいるから……」
「よ、吉井くんみたいな人を言うの!!」
正面切って叫んだ後、ちょっと目を背けて言うには
「し、白神さんがちょっとうらましい。美人だし、吉井くんといつもいるし」
その言葉に、沼田さんが茶々を入れる。
「告白ぅ、ですかぁ?」
「ち、違うわよっ!! でも、これからも仲良くしてほしい、というのは本当」
そう言ってから、芦田さんはきびすを返して走り出す。
「廊下、走るなよ」
その言葉に、
「もう少しぃ、女の子の気持ちを分かってあげてもいぃーんじゃないですかぁ?」
と、批判めいた言葉を口にする。
「それも、芦田に教えてもらおうかと思ったのだが」
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