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 とぼとぼと肩を落として家路につく芦田さん他二名を見送りながら、私は、彼女にプレゼントされた漫画という代物をぺらぺらとめくってみた。インクの匂いが鼻に染みるが、ガマン我慢。

「取り敢えず、文章を追ってみたけど、さっぱり何が書きたいのか、主張みたいなのがよくわからないわ」

 こんなこと、もらった人の前では言えないよな。

「『胸キュン』とか、意味不明だ」

 添えられた絵を見ても、目が異常に大きく、瞳孔が変な形に開いている。死んでいるのか、この人。

「俺は漫画を知っているぞ、新聞に載っているからな」

 そういって、健が私の手からその本を引きはがすと、目を落とす。

「オチという名の風刺があるはずなのだが、はっきり言ってよく分からん。」

 そう言って、パタン、とその本を閉じる。

「ものすごく高度なレトリックが隠されているのかもしれない。これは、今度、芦田さんにレクチャーしてもらう必要があるな」

 さすがに健のほうが、この本の本質の理解に近づいているのかと思うと、ちょっと恥ずかしくなった。

「病むことは無いさ。ゐすゞだって、俺だって、誰だって、他の人の専門分野を知らない、と言うことは往々にしてあるんだ。そういうことは、知っている人に聞いて、その知識を明日の糧とすればいいんだ。知らないのを知らないままにしておくのが、最もダメなことだろ」

「そうね」

 一つの漫画という小宇宙に対する論議を交わしていると、いつの間にか帰るべき場所の前へと辿り着いていた。

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