9
五人で近くの机を合わせて、さっそくテスト勉強を始めた。席順は、私の左側から「田」の字に芦田さん、小田さん、健、沼田さん、そして女性陣の側面にくっつくように私の席が設けられた。
「白神さん、これ教えて!」
「もーうー、すぐにー人に聞こうとするから、覚えられなーいんですよ」
「あ、これはここを代入して、これこれこれこれを順に計算したのをこちらに書いてから、さらにそれを……」
「あーあ、俺は白神さんに個人レッスンを受けたかったな」
「俺じゃ不満か?」
そんなこんなで、日が暮れる頃まで、五人で勉強していた。それにしても、私と健以外のみんな、授業のない日でも参考書やノートを持って来ているなんて、熱心な人たちだな、と思った。テスト勉強とか、したことないから。
下校の音楽が鳴り、
「今日は終了だな」
の健の一言で、私たちは参考書を畳み、席を立つ。机を元に戻して、家路につく。
「白神さん、今日一日、すごく勉強になりました。感謝です」
「白神さん、今日一日、目の保養になりました。感謝です」
芦田さんの言葉を捩って、小田さんが私に感謝の言葉を伝える。
「セクハラ発言すると訴えられる可能性がある、ってことを吉井くんが言っていたの、もう忘れたの?」
頭をぐりぐりする懲罰を加える芦田さん。そんなこんなで、通学路の通り沿いの本屋にみんなで入り、指定された教科書、副読本などを購入する。
「ね、白神さんたちはどんな本とか読むの」
芦田さんが、ちょっと不思議そうに尋ねてくる。
「涼子みたいに乙女チックな漫画なんか見ねーよね」
「芦田さんはー、男の子のキャラクターがちょっと不良っぽいけど優しくって、身体を張って護ってくれる、ーって感じの漫画ばっかり読んでるんですよー」
二人して、趣味をばらされている芦田さんは顔を赤らめて、
「私はいいから、インテリさんたちの学習法を聞いているのよ、ねっ、分かるでしょ」
あたふたしている芦田さん。
「本屋なんか、小さい頃つぶれてしまってなかったから、活字と言ったら家で新聞読んでたくらいかな」
「私は、倉庫にあった古い本をよく読んでいたのよ。活字じゃなくて写本だけど」
「なんか、俺らの考えるインテリの更に上を行っている」
私たちの答えに感心したように、腕を組んで、小田さんがうんうんと頷く。そして、視線を芦田さんに移す。
「なによ、どうせ私はバカで夢見がちな乙女ですよ」
「乙女って感じか」
嘲笑の混じった物言いに、むっとした芦田さんは、近くに平積みしていた漫画本を手にとって、私に表紙が見えるようにして、こう言った。
「これ、私が今、一番嵌まっている漫画。プレゼントするから、是非、読んでみてよ、ね」
私は困惑した、だって……。
「漫画なんて読んだことないから読み方が分からない」
芦田さんの顔が凍り付いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます