「……で、学校はどこ?」

 小学校も中学校も同じ場所で、少ない生徒数ではあったが、人の流れに乗って後を追えば到着できたのであるが、ここでは人々が場所も時間も関係なく、せわしく動いていた。それぞれがそれぞれの目的で。

「ゐすゞ、東西南北がわかるか?」

「今、向かっているほうが南だけど」

 太陽の位置と時間から方向を割り出そうにも、高層ビルに遮られて判りにくい。体内で地磁気を検知し、健に伝えた。

「それならこっちだ」

 地図を見て、周りを見回した健が指し示した方向は、人の流れが最も少ない東側。言ったなり、彼はそそくさと歩き出した。

「待ってよ」

 彼の進む後ろに付いて歩く。しばらくすると、慣れたと言ってもやはり空気が息苦しくなる。しばらく歩くと、川沿いの桜の並木道に辿り着いた。

「調子、どうだ?」

「ええ、まあ」

 車道やビルなんかから離れたためか、息苦しさは少し解消されたものの、まだまだ本調子とは言いがたい。

「とにかく、行きましょ」

 学校は桜の下を抜けた先、歩いておよそ二十分ほどの向こう。踏み固められた砂地の道を、私たちと同じ制服を身につけた生徒たちが駆けて、また自転車で追い越していく。

 やがて、川が大きく蛇行する場所に差し掛かるのだが、道はそのまままっすぐ、ただし少し傾斜をともなって、私たち生徒を学校に導く。桜が散れば広葉の緑が生い茂ることから、この坂の名前「緑坂」になり、地域の名前になり、そして学校の名前になった。坂を登り切ったところの正面に、白亜のコンクリート造で高い建物……緑坂高校が広がる。この道を通る多くの生徒が、そのまままっすぐと、その建物へと吸い込まれていくのであった。

 下駄箱から廊下、そして講堂。真新しい制服が鈴なりに座っていた。その間を縫って、指定された椅子に座る。……そのままずーっと座っていると、終わった。

 式が終わると 、それぞれが与えられた教室へと吸い込まれていく。1-A。私と健はその標(しるし)を目印に人の波に泳いでいく。

 室内では、五十音順に健が窓際、私が真ん中どころに座ることになっていた。席に着くと、周囲はすでに、式が終わって開放的になった生徒たちの雑談が始まっていた。

「中学はどこ?」

「担任の先生、怖いかな?」

 そんな会話が周囲から漏れる。

 その中に、

「あの子、かわいいね」

 ふ、と気がついたときに、それが自分に向かってかけられた言葉であると気がついた時にはすでに、背が高く、四角い眼鏡をかけててスーツを着た、目の前に教師とおぼしき男性が教壇に立っていた。年の頃は五十くらいの、ベテラン教師と言った雰囲気だ。

「今日から君たちの担任をする太田です。」

 そう言って、名前を書き始めた。

「前の学校から転勤でここに着任したので、君たちと一緒で僕も新入生です。まだまだ、この学校のことは解ってないので、至らない所もあるかもしれませんが、今日からよろしくお願いします」

 そう言ってうやうやしく頭を下げる教師。

「いろんな人がいますが、皆さん、仲良く勉強していきましょう。では、皆さんも自己紹介をお願いします。出席番号順で、まず最初、芦田さーん」

「はい。」

 そう言って立ち上がったのは、眼鏡をかけた背の高い短髪の女生徒だった。

「出席番号一番、芦田涼子。」

 男女混合で五十音順、で自己紹介ははじまった。私はごくごく普通の生徒であることをPR。で、最後が健。別にこれといって、たとえば人外が私以外に混じっていたとか、そういうことはなく、私以外はごくごく普通に自分のことを紹介していた。その後に、学校とか授業とかの説明があり、印刷された資料がいくつか配られた。なお、教科書は、指定された取り扱い書店に行って各自で受け取るとのこと。それから、明日からテストがあり、授業が週明けからということだった。

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