翌朝……。

 身体が、昨日以上にだるい。時刻は、まだ日の出前。ふらーっと立ち上がり、まだ片付いていない荷物の山の裾野をぐるーっと廻りながら、ふらふら、ふらふら、と千鳥足で進む私。目の前なんて、まともに見えていなかった。

 ふと、何かに蹴躓いて、自身が倒れ込む。

「うわー、倒れた」

 自分でも、変なこと言っているな、みたいなことを思いつつも、もはや正常とは言いがたい状態で、それを正確に認識することは困難なのである。

「なんか、やわらかいものがある。ふにふに~」

 その、ふにふにしたものから突然声が、

「ゐすゞ、何してんだ? な、襲われた」

 あ、健の声だー。なんで。

「どけよ、ゐすゞ。ちょっと、重たい」

「あー、太ってないわよ、いいでしょ」

 何、言ってんだか。

 柔らかいかたまりの中から出てきたのは、健の頭。すごい近くまで迫ってきた、と思ったら、そのままぶつかった。

 あ、私のほうがその頭に近づきすぎたのだ。

「あちっ、ゐすゞ、大丈夫か。」

 熱いって……

「熱がすごいぞ、とにかく、横になっておけ……」

と言われている間に、ふと意識が途切れ、私の足は崩れ落ちた。

「俺の布団……なのに」

 ふらふらする私の意識の中で、健は布団を私に明け渡し、朝食の準備を始めた。

 ちょうど、それと入れ違いになるように、昨日の憑き物が私の近くへやってくる。ぷにっ、と私の頭の上に乗っかって、

 ぴー

 わりと冷たい、この憑き物。あー、気持ちいいわ。しかし、その憑き物は青い躯を真っ赤にして、私の身体から発せられる熱を必死に受け止めている。

 ぽんっ。

 一分も経たないうちに、ケンケンは私の額から離れていく。猛タッシュ、って感じで。部屋の隅までいくと、私のほうを向き直り、心配そうに見つめる。

 あ、私、そんなにヤバいんだ。

 朦朧とする中、頭を巡った感覚は、それが限界。正確な病状といった事態の判断は、いかようにも不可能なものであった。

 別に勉強しなくたって、新しい世界に出てこなくたっていいじゃないか。人の姿を棄てて、あの地域だけをずっと見守っていく、ということもできたはずだ。都会の神と喧嘩もしたくないし、……。混濁していく意識の中で、都会に出てきたことを後悔した。

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