唐柿食はざる者、唐柿の助くる所と為る。
赤羽しゅう
唐柿食はざる者、唐柿の助くる所と為る
昔、男がいた。男は、野菜を食べられなかった。もし食べようものなら、猛烈な吐き気に襲われた。
とある日、男は友人に唐柿の輸送を頼まれた。男は断ったが、高額な報酬を提示された為、渋々これを受けた。数は1個。距離は、歩いて20分ほどだ。男はそれを懐に入れ、目的地へと向かった(懐に入れとかなければ、手が痒くなってしまう為だ)。
道中、男は気配を感じた。みるみる近くなっていく。慌てて走り出したが、既に時遅し。男は暗殺者の捕らわる所と為った。暗殺者言ひて曰く、
「我は依頼を受けた者なり。野菜を食わざる者は、そちなるか?」
「如何にも。」
男は答ふ。
暗殺者言ひて曰く、
「依頼者、野菜を食わざること良しとせず。野菜を食わざる者、以てこの世に生きるべからず。故に今、我子を殺す。」
「ああ、理不尽なり。」
男は言す。
構わずに、暗殺者は男に短剣を投げつけたり。右胸に刺さる。真紅の液体が、男の左胸から出で来る。男左胸を抑え、苦しそうにし、必死にその液体が漏れ出ることを阻止せんとす。苦闘虚しく。男は倒れたり。暗殺者、以て場を去る。
暫くの後、男起き上がる。懐より唐柿を取り出して曰く、
「我唐柿を食さず。しかして我、唐柿の助くる所と為る。今、我は唐柿に感謝を述べん。」
さらに歩きて曰く、
「我、唐柿に命を救われたり。しかして、何ぞ唐柿を食する理由に為らん。」
以て懐より潰れし唐柿を出し、道端を捨てん。
男、目的地へと着きたりける。別の依頼主言ひて曰く、
「なんぞ唐柿を持て来ざる。故に報酬は与えぬ。帰るがよい。」
男言ひて曰く、
「ああ、愚かなるかな。」
唐柿食はざる者、唐柿の助くる所と為る。 赤羽しゅう @Syu-ami
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