昼間に見るホラー映画は以外と怖い

@10071999

第1話




八月某日。

さんさんと降りまく太陽の光はアスファルトに反射し、より一層暑さを増していた。

天気予報によれば、最高気温は35度を超える猛暑日だことらしい。

夏休みが存在しない社会人は暑いも寒いも関係なく、せっせとアリのように働いている。

そんな中、ゆっくりテレビを見ながら、クーラーをつけて室温18度を保つリビングで過ごす夏休みというのはなかなか快適である。

なにもしていないのに、社会が回っていくことに気づいている俺は、当然なにもするわけでもなく、平和な毎日を過ごしていた。

はずだった。


翌日、やけに胸騒ぎがすると思い、いつもよりも遥かに早い時刻に起床すると、妹がラジオ体操に出かけていることに感心しつつ、バースデーケーキが入った冷蔵庫からオレンジジュースを取り出しコップに注ぎ、ひと口で飲みきる。

そして、もう一度眠った。

次に目覚めたのは、三時間ほど経った頃だ。太陽も南中高度に差し掛かろうとしている時にそろそろ起きようかなとゆっくり布団から起き上がり、リビングへ朝食を食べに行くことにした。

今日は、いつものようにご飯に焼き魚そして卵焼きといったメニューかな。あるいは、珍しくパンという可能性があるかもしれない。

期待を胸に膨らませ、リビングに入るが、そこにはご飯も焼き魚もなく、食べ終わった食器のみ残されていた。

「なぁ、この飯は誰が食べたんだ?」

ラジオ体操から帰ってきた妹がテレビを見ながら、親切に答えてくれた。

「なに言ってるの?さっき食べてたじゃない」

「誰が?」

「お兄ちゃんが。なに?もしかしてぼけてんの?」

いや、ぼけてねぇし。寧ろ、頭冴えてるし。多分……

ともあれ、俺の朝食を食べた犯人がこの家の誰かということは間違いない。

もしかすると、腹を空かした泥棒が金品よりも朝食を盗んだのかもしれない。

それからまた数時間後、妹が珍しく俺の部屋にノックもせずに入ってきた。

「お兄ちゃん、さっき私のパンツ頭につけてなにやってたのよ」

「は?」

「は?じゃないわよ。妹のパンツ頭にかぶって走り回るなんてどんな神経してんのよ。この変態兄貴!」

「誰が変態だ。そもそも俺はそんなことをしていない。あと、変態じゃなくて変態紳士だ。よく覚えとけ」

「どうでもいい!それより私のパンツ返してよ!」

「だから、そんなもんは持ってないーー」

右手になにやら不思議な感触がした。

見てみると、確かに俺は握っていた。

「……これは、パンツ」

男子高校生の 夢と股間を膨らませるこの瞬間であった。

これはもしかして夢かもしれない。

その0コンマ1秒くらいで俺は殴られることになるわけだが。


なにやら、先ほどから誰かからの視線を感じる。

昼間のリビングは電気もつけず、妙に不気味な雰囲気を漂わせている。

聞こえるのは外から漏れる油蝉の鳴き声とテレビ越しに映る高校球児たちによる戦いである。

クーラーから流れる乾いた空気が鳥肌を立たせた。

いつもならちょうどいいと感じる部屋の中が今日は寒い。

妹は外に出かけ家には俺ただ一人のはずなのにーー誰かがいる。

俺は意を決して家中を探したが、誰もいない。だが、背後からの視線が消えることはない。

ーー 気味が悪い。

俺は、家を出て友人に電話をかけた。

「もしもし?」

「あー、久しぶりだな。ちょいと相談に乗ってもらいたいことがあるんだが」

「その相談とは?」

「家には俺以外誰もいないはずなのに視線を感じたり、俺の知らないところで俺がやったという証言が出たりするんだが、なにかわかるか?」

友人は通話越しで一度咳払いをして質問に答えた。

「それは、多分「ドッペルゲンガー」ってヤツだな」

「ドッペルゲンガー?」

「ああ、自分と瓜二つの存在のお化けさ。自分と違うところで自分がいるっていう感じだ。面白いだろ?」

面白いとは微塵にも思わないが、彼にとって興味の弾かれるオカルト話はいつもなら役に立たないが、今回は初めて役に立つ。

「ただな、いいことばかりじゃないんだ」

「というと?」

「本人に会ったら、そいつが最期だ」

そして、通話が切れた。

ーーなにやら、足音が聞こえる。

その足音はゆっくりとこちらに近づき、一切のペースを乱さずに来ている。

室温18度以上に感じる感じる寒さは鳥肌を立たせ、恐怖で足は動かなかった。

薄暗い廊下の奥から、姿が見えた。

見覚えのあるジャージに見覚えのある体型。例えるなら、俺だ。

もし、これが友人の言ったドッペルゲンガーならと考えた。

そして、一気に悪寒が走る。

なぜなら、ドッペルゲンガーに会った本人はーー死ぬからだ。

ゆっくりと近づき、そしてーー






「誕生日おめでとう~!!!!!」

ぱんぱんとクラッカーの音とともに妹と友人がそこにいた。

見覚えのあるジャージは、友人が着用し、妹は冷蔵庫からバースデーケーキを取り出し、どうぞ、と礼儀正しくふるまう。

「……なんだ?これ?」

「そんなの決まってんじゃんお兄ちゃんの誕生日だよ」

「自分の誕生日も忘れちまったのか?我が友人よ」

頭の中がパンクしてなにがなんだがわからなくなった。すべて説明しろと言うと、どうやら友人と妹によるサプライズだったらしい。

妹は今朝はラジオ体操に行ったのではなく、友人と計画を練っていたらしく、俺が寝ている間に飯を食ったのはその友人。部屋が寒いと感じたのは妹がクーラの温度を下げたからだ。

さらには、ドッペルゲンガーを装うためにこっそり妹が俺の死角をついていたらしい。

スネークになれるな。俺の妹は。

そして、俺が通話してきた時には俺の家にいたらしい友人はドッペルゲンガーの話をして俺を完全に騙したということらしい。

そう、要するに俺はハメられたのだ。

「計画大成功だね!お兄ちゃんの友達!」

「おう!……ってか、そろそろその言い方やめてくんない?」

別にいいじゃん!、と妹は言うが、友人は少し腑に落ちないらしい。

バースデーケーキを美味しくいただいていると妹は俺に話しかけてきた。

「けど、お兄ちゃん。パンツのことは許さないからね」

「え?あれもドッペルゲンガーじゃないの?」

「違うわよ。そんなことお兄ちゃんの友達に頼めるわけないじゃない」

その時、俺は再び背後からの視線を感じた。

もしかするとあのパンツはと思い、

俺は股間と気を引き締めた。







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