終幕:グッバイ、イエスタデイ(a)



 立ち入り禁止。そう書かれた扉に手をかければ、少々立てつけは悪いもののすんなりと開いた。僕は内心、呆れたセキュリティだと思いながら屋上へと出る。

「まぶし……」

 強烈な西日が僕に差す。真っ赤に熟れた太陽は、下に広がる家々や遠くのビル群のそのまたずっと向こうに消えてゆこうとしていた。黄色から赤色へと至るグラデーション。ゆらゆらと揺れるように沈んでゆく太陽は美しい。僕の頭の上には少し先を急ぎすぎた夜が顔を出していた。最後にここに来られてよかった、僕は素直にそう思う。

 打ちっぱなしのコンクリートの上には、誰が吸ったのかも分からない煙草の吸殻が無数に散らばっていた。それを仕方なしに踏みながら、僕は縁にあるフェンスへと向かう。緑色のそれは学校の設立当時から修繕など一度もされていないらしい。触れれば錆びた欠片がほろほろと手に零れる。この上を飛び越えることは難しく無さそうだが、今の僕の服装は制服。汚れてしまうだろうし、あまり運動に適したものではない。そこで諦めて、フェンスの出入り口を探す。すると屋上を半周するかしないかのうちにそれを見つけることが出来た。簡易的なカギを外して、僕はその外側に足を踏み入れる。

 思ったよりも幅があり、簡単には落下しないようになっている。フェンスの出入り口を開け放ったまま、僕は縁に腰を下ろした。視界から見えるのは遠く離れた地面。足は外に投げ出しているため、風が吹くと投げ出した足も揺れる。その浮遊感を楽しみながら僕は街を眺めていた。

「――なに、死ぬ気なの?」

 驚いて後ろを振り向けば、見慣れた彼女の姿があった。驚かせるなよ、小夜。僕ははあ、と息を吐きながら再び前を向く。小夜はそんな僕を気にせずに隣へと腰をかけた。

「この卒業式を終えたはれの日に、自殺なんてするなんて何て粋なんだろうなって思ったの」



/了

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