不易の着物

 今回はリサイクルではなくリユースの話になります。

 埃と樟脳の臭いが充満する祖母の箪笥の中に奇跡としか言いようのない状態で保管されていた着物がいくつかあったので、そのお話です。

総レースの羽織

 ワインレッドのレース地の羽織が、シミ一つない状態で発見されました。とてもモダンな羽織だったのでたとう紙を新しくして収容、保管しました。

 後日、フクオカパルコの浴衣売り場で似たような羽織が、浴衣とコーディネートされているのを見てビックリしました。浴衣に・・・・・羽織!?れ、冷房対策かな?とすっとぼけながらお値段を確認すると、ジュンク堂で値段を気にせずに二十冊程度の本が買える値段だったので二度びっくりしました。

 クラシカルな浴衣にレースの羽織は、確かにおしゃれでした。それは着物を普段着で着る人にとって、八十年前であろうが、三十年前であろうが現代であろうが通用するおしゃれの感覚でした。こういう組み合わせもあるのかぁと感心しながら、着物の持つ不易なデザイン性を目の当たりにしました。

若草色の道行きコート

 ずっと前に、梅戸家の着物を陰干ししている時に、母と、道行きコートがほしいと喋っていたことがあります。道行きコートとは、羽織と似たアイテムで、羽織よりも丈が長く保温性の高い、衿がスクエアに空いた着物です。

 それが、祖母の箪笥から完璧な状態で発見されたのでただちに収容しました。

 若草色なので割とどんな着物にも似合うのです。着物のコーディネートというのは、足し算しかないので組み合わせ次第でどうにでもなるのです。例えば補色の赤い着物とあわせる場合は、黄色やピンクを使うとまとまりがよくなったり、同色どうし、緑の着物と会わせる場合は生成りや白で爽やかなメリハリを出すのも良いかと思うのです。

 道行きコートは、必要な陽で実際には必要じゃないだろうけどいざという時にあったら便利だよなあというアイテムなので、祖母の箪笥から発見されたのは本当に僥倖だと思いました。

 サーモンピンクの小袖

 小袖というのは、裏地のついたカジュアルな着物のことです。雪月花や幾何学模様などが配されたものが多いです。着物が日常着だったころの祖母も小袖は沢山持っていました。

 着なくなって箪笥の隅にしまわれて、大かたは虫やネズミに食べられてぼろぼろになっていましたが、子の小袖は無事でした。モーヴピンクというかローズプードルというか、そういう落ちついた地に、生成りのチューリップが配されたモダンな着物です。

 右袖の脇の目立たないところに一ミリ程度の虫食いがあったほかに、瑕疵は無かったのでこれも真新しいたとう紙に包んで保管しました。

 後からこの着物を母に見せると、小学生の授業参観の時によくこの着物を着てきたと心底懐かしそうに言いました。今では胡乱な受け答えをする腰が曲った九十近い祖母が、四十年前はしゃんと着物を着て娘の授業参観に訪れていたと想像すると、時の流れの重みを感じます。

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