夢と現と俺と君

三井さくよし

第1話 俺と愉快な仲間達?

毎日毎日来る日も来る日も、仕事行って帰って飯食って風呂入って寝て、起きて仕事行って

正直、これが大人になる事なんだって社会人になって始めて気付いた


就活で躓いて社会人になれない奴もいたし、夢を追いかけるんだって今だフリーターやってる奴もいる


それに比べりゃマトモなんだろうけど、これが後何10年も続くんだって考えたらゾッとする


もう30も半ばだけど、その内結婚して、子供作って、多少の波風はあれど平々凡々同じ毎日が繰り返されていく


怖くなった


これじゃ怠惰な自殺行為と一緒だ

身を粉にして働いて働いて働いて

俺には何が残る?


何も残らない


そういや、中学生の頃の夢はミュージシャンだった

なんかでっかい事やってやるんだって無意味に将来と自分の隠された才能?に期待してわくわくしてた


そんな気持ち、どこにやっちまったのかな

大人になるにつれ擦り切れてって、やがて形も見えなくなった


挫折とか格好いいもんじゃない

俺は自分に見切りを付けたんだ

自分の枠を悟ったんだ

俺は何の才能もない、平々凡々な一般人


コンビニの弁当

仕事以外じゃ鳴らない携帯

使いもしないジョギングシューズ

貯まっていくポストの中身とゴミ袋


俺の人生、まったくもってつまんねぇ


でも何かをしようと思う程の気力もない

甘えだとか、根性がないないんてセリフ聞き飽きた

今できねぇもんはできねぇんだよ


変えたいのに動けない

死ぬ気になれば、なんて笑える


でも働かなきゃ金が無い

会社への責任なんかこれっぽっちもねーよ

何が飲みニケーションだよばっかじゃねーの

仕事の一環だって言うなら時給くらい出せや


そういうのが出世に繋がるとかマジ意味わかんねー

行ったら気遣いで精神すり減らして、断ったら村八分

そうやって辞めていった同期もいた



日々溜まっていく愚痴と不満と不安

このままでいいのか?


「ま、どーにもなんねーわな」


隕石でも落ちてきたらいいのにって本気で思うわ


そんなこんなでもう深夜1時

そろそろ寝なきゃ明日の仕事に差し支える

社畜乙

あー、働きたくねぇ

楽して生きてぇ


ごそりと布団に潜れば3秒で夢の中


普段は夢なんか見ないのに、その日は何だか違った

なんつーか、世紀末覇者が出てきそうな荒廃した街中に俺は立っていた

ていうかここ会社の前じゃん

潰れてる?ヒャッホー!


「いや、ヒャッホー!じゃねぇよ。まぁ夢だから願望出ちまったのかな」


「あの・・・」


「ん?」


振り向くと、清楚な黒髪女学生がいた

真っ黒なストレートヘアにセーラー服

昔憧れていたクラスのマドンナにどこか似ていた


「良かった、人に会えた・・・」


「なに?どういうこと?」


「気付いたらこんな所にいて、誰にも会わないし不安で・・・」


「え?いや、ここ俺の夢の中だよね?」


「え?ど、どういう事ですか?私も自分のベッドで眠ってた筈なんですけど・・・」


「・・・えぇ・・・?マジでどういうことこれ・・・」


「私にもさっぱり・・・」


少女は明らかに困っていた

俺もどう考えても困っていた


これは、あれか?この少女の夢と俺の夢がリンクしたってこと?

いやいや、そんなファンタジーじゃあるまいし


「お、人はっけーん!おーい!」


2人で向かい合って首を傾げていると、背後からまた新たに声がした

男が2人に、女が1人


「ね、君らも寝て起きたらここにいた感じ?」


いかにもチャラそうなギャルが馴れ馴れしく話しかけてくる

俺はギャルが嫌いだ

あいつらは未知の生物だ


「起きたら、っていうか多分まだ寝てんだろ。これ俺の夢の中だし」


「私もなんだよねー!寝て起きたらここ、どこ?みたいな(笑)」


「あ、そう」


俺はギャルをあしらい、一番マトモそうな男の顔を見た

所謂イケメンってやつだ


「アンタは?」


「僕ら皆一緒です。自分の部屋で寝て気付いたらここに」


もう片方はめちゃくちゃオタクっぽい野郎で、こいつもネカフェで寝ていて気付いたらここにいたらしい

話を要約すると、全員睡眠下にあり、気付いたらここにいた

つまりここは夢の中か、あるいは不思議な力で異世界に・・・

いかんいかん、妄想が過ぎるぞ俺


「と、取り敢えず自己紹介でも、する?」


「そうですね、名前が無いままでは不便ですし。私は五十鈴 千世と申します。17歳です」


黒髪セーラーさんは千世ちゃんというのか

お顔にピッタリの清楚な名前だ


「お、千世りん同い年じゃーん?あたしは七瀬 六月!よろぴくぴくー」


ギャルの名前はどうでもいい



「僕は九重 二郎といいます。26歳です」


イケメンの癖に二郎とはなかなか渋い名前をお持ちだ。それに26の割にはかなり若く見える


「八尾 零次。27」


オタクはオタクの癖にちょっと格好いい名前だ

なんかムカつく


「俺は三橋 一智。35歳」



「え、えぇ!?35!?嘘でしょ!?」


「は?なんで?」


「だって、どう見たって中学生か高校生くらいじゃん!」


そんな馬鹿な、とギャルを一瞥すると彼女は小さな鏡を取り出し俺に向けた

そこには、正しく中学3年生の俺がいた

ぺたりと顔に触れると、失われつつあった肌のハリが存在した


「え?なんで?なんで俺だけ?中学生?」


「夢って、自分のなりたい姿になれるからではないですか?きっと三橋さんは中学生の頃に戻りたかったのですよ」


千世ちゃんがそう言って微笑む

そう言われるとそんな気がしてきた

だってここは夢の中!なんでも俺の好きに・・・


「まてまて、そもそも夢がおかしい。なんなのさこの状況」


「さぁ、そりゃあたしらにも分かんないけどさ、こんな事出来んの知ってる?」


ギャルはくるりと指を回す

するとふかふかのパンケーキが出てきたではないか!


「ぅえええ!?なにそれ!」


「さっきお腹空いちゃってさー、パンケーキの事考えたら出てきた」


「お前、出てきたって・・・そんな簡単に・・・」


もしや俺も出来るのか?


「け、剣よ出ろ!」


ぽひゅん

と情けない音を立てて僅かばかりの煙が出た

剣は、出てない


「ぷー!剣よ出ろ!だって!剣よ出ろ!!しかもでねーし!ひゃははは!」


一瞬にして恥ずかしさはピークだ

いい年して何が剣よ出ろ!だ!

恥をしれ自分!


「多分、得意不得意があるんじゃない?僕も試したけど何も出なかったよ」


イケメンマジイケメン

フォローさせて申し訳ない

しかし得手不得手があるのか


RPGに例えたらこれは魔法なのか?

ギャルは魔法使いってとこかな


「みんなも試してみよう。何が出来るか」


結果としては

ギャルは魔法的ななんか出したりしまったり、雷出したりが得意


イケメンは人の荷物からなんかちょろまかすのが得意


オタクは意外にもパワーめっちゃ強い


千世ちゃんは手から光が出て、それを当てられると何だかホワーッとなって元気が出る


「つまり、ギャルは魔法使い、イケメンは盗賊、オタクは戦士、千世ちゃんは白魔道士って感じなのかな?


「で、智ちゃんは?」


俺は


「特に出来ることはない!」


「いばることかよ!」


「考えても見ろ。そんな事が出来てなんになる。敵が出てくるわけでもあ、る、まいに・・・」


ズゥンッと音を立てて地面が揺れた

一瞬地震かとも思ったが、今にも崩れそうなビルの影からこちらを覗いていた馬鹿でかい「何か」と目が合って、俺は思考を止めた


「あ、あ・・・」


「なに?急にばかになったの?うしろ?なに・・・」


震える手で指さした方向を全員が見た

ソイツは巨大な胎児だった

赤黒く、丸でついさっき生まれたかのような


「まっ・・・まぁぁぁ!」


巨大胎児は鼓膜が破れんばかりの咆哮をあげ、こちらに近付いてきた



「に、逃げるぞ!!!」


俺は千世ちゃんとギャルの腕を掴んで走り出した

男は知らん!自分で何とかしろ!


「ちょ、逃げるってアテあんの!?」


「とりあえず走れ!」








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