SHOWGEKI!! 冬演目「天天上々」

~あおり文

―時は安土桃山時代。

時代を賑わした天下無双の大泥棒「石川五右衛門」と、

うっかり封印を解き目覚めさせられてしまった平安の陰陽師「安倍晴明」、

天下統一の意志を織田信長から受け継いだ「豊臣秀吉」が巻き起こす、


人気英雄達を斬新な切り口で描く奇奇怪怪で豪華絢爛な異色の三人組による、

地上も天上も巻き込んだ、アバンギャルドでアナーキーな天上天下統一の舞台裏。


誰も見た事のない新進気鋭の活劇演目、始まる。



~あらすじ

 この舞台は、平安時代、京の都で安倍晴明が静かに息を引き取る所から始まる。

亡くなった安倍清明の肉体を奉祀しようとするが、彼の持つ強力の魔力により半妖怪化し、荼毘に臥す事も出来ずこのままでは最強の妖怪になってしまう可能性があった。

 同志達は安倍晴明を表向き嵯峨山へと埋葬した事と表し、安倍清明の肉体は下鴨神社へと秘密裏に封印された。


 そこから約500年後、安土桃山時代へとシーンが飛び、よく通る高笑いが天井を突き抜ける。

 天下の大泥棒『石川五右衛門』は義賊よろしく強気を挫き弱気を助ける傾奇者として跳梁跋扈していた。そんな中盗みに入った下鴨神社の宝物庫で見つけた荘厳な葛籠。天下の王泥棒の眼前に開けてはならぬと書かれていれば、開けぬわけにはいきますまい。五右衛門は厳重な封も何のその、得意の鍵開けであっけらかんと葛籠を開けてしまう。

 

 すると、中から出てきたのは何と、

 黄金でもなく、財宝でもなく、巨大な霊力を有する安倍晴明の死体。


 青く揺らめく人魂をぶら下げながら、安倍清明がとうとうと語る。

 安倍清明は死後、神仏になり「第97代目閻羅」として地獄の裁判官の任を担い、冥界に来る死者達を裁き早々に任を終え、既に引退をし極楽浄土の暮らしを楽しんでいた。ところが、戦乱の時代、戦で活躍し巨大な霊力を持った人間が一度に多く死去した事により、死後神格化され下界に降りた元武将達が力を付け過ぎてしまっていた。

 この事態を受け冥界では神仏の神格レート変更、及び役職変更を行う事とした。

しかし、この通達に素直に従わぬ神仏が多く、使い魔達では霊力の強い神仏たちをどうする事も出来ず冥界から頭を悩ませていた、との事。

 折角現世に戻り尚己の肉体に受肉する事が出来たので、このまま現世神仏に灸をすえに行く、と安倍清明は額に札をぶら下げ死体のまま現世残留をする事となった。


 手伝わなければ末代まで呪うと脅す清明に、仕方なく手を貸す事とする五右衛門。そしてこの寸劇の一部始終をたまたま見てしまっていた狐憑きならぬ猿神付きの「秀吉」は、本能寺にて亡くした君主、織田信長に再び会い最後の言葉を貰うため、妖怪化した織田信長へと会いについ行く事と成った。

こうして異色の三人組による天上天下統一の旅が始まった。



 彼らの行く手には戦国時代を華やかに暗躍した武将達が妖怪や神仏に身を変え次から次へと登場する。

茨木童子となった明智光秀、輪入道となった武田信玄、白虎となった上杉謙信、そして八岐の大蛇となった織田信長。

彼ら大妖怪の討伐を通じながら、彼らの武将としての生き様や理に触れ、武将として成長していく秀吉公。ついに彼は信長公の心を継ぎ、北条氏戦を納め、ついに天下統一を果たす事となる。


その時、秀吉に取り憑いていた猿神が本性を表した。隙をつき令呪の札を奪い清明を冥界へと送り返してしまう。秀吉を乗っ取った猿神は、神仏達の力が弱まったこの時を狙い、人も天上も乗っ取ろうと咆哮を上げる。


 猿神の力により雷鳴轟く暗雲に都が包まれた、その時

「まったく、粋じゃねぇなぁ。」

闇夜を切り響くは、素頓狂な程、快活な一人の男の笑い声。

「この世がどうなろうと、俺様の知った事じゃあねぇ。だがな、秀吉の後ろに隠れてただけのテメェが天下を横から掻っ攫うような真似とは、ちょいと筋が違うんじゃあねぇか?人の上に立ちたくば、粋と心を見せやがれ!」

大見得を切るその手には、いつの間にか宝物庫にあったはずの"群雲の剣"、大きく振りかざし石川五右衛門は厳重に封じられていた都の結界を解き放った。

途端、湧き出る魑魅魍魎、全国各地から集まる今まで討伐してきた歴代の武将から成る大妖怪達が京の都に集結、そして冥府より舞い戻りしは、99代目を襲名した閻羅王、安部清明。

「さぁさぁ、演者は揃った。天上天下も巻き込んで、見せてもらおう一世一代の大立ち回り、これぞ、本物の見世物だ!良いじゃねぇか。祭だ祭。面付きあわせて、拳を合わせて、この世もあの世も己の手で掴んでみやがれ。なぁ、お前も眼を開いてちゃあんと見てみろ、秀吉!!!」

猿神の懐に潜り込み腹を裂いた五右衛門の言葉が、深く意識の底に囚われた秀吉を呼び起こし、秀吉は自我を取り戻す。

 秀吉の名刀”吉光”を手に、安部清明の札と五右衛門の剣の力を借り、秀吉は猿神を討伐し、都の封印を取り戻した。


百鬼夜行の一夜が明け、京の都に平和が訪れたその頃、猿神に取り憑かれた己に老いを感じ秀吉は徳川家康を伴い下鴨神社を尋ねる。

「今度は奴等の役に立ちたい。どうせなら霊として強いほうが良いだろう。仏神になって、現世を何時迄も俺が納めてやるよ。」

 自身を八幡と奉る事を命じ、秀吉は境内の竹藪で自害する。この事は伏せられ、1598年、秀吉は天寿を全うしたと語り継がれる事となる。


 豊臣秀吉から徳川家康に引き継がれ、天下統一の世の先で繰り広げられる平穏の世。平和な都の鱗雲を眺めながら、五右衛門は大きく欠伸を零す。

 腑抜けになったな、と笑う安部清明に対しかかかと笑う五右衛門。

「どうせこの世は一度限り、死んで尚、この世界に舞い戻るなんざ、俺はゴメンだね。俺は、天下一の大泥棒、石川五右衛門。どこまでも、自由に生きてやる。」

 大きく笑った五右衛門は突然、安倍晴明を斬り、姿を消す。

 安部清明が最後に持っていた神仏一覧の巻末には、五右衛門の名が刻まれていたのだった。


後、江戸時代に世間を義賊として彼が活躍したのは、そこから訳百年後の話。

逆光のスポットライトを浴び太眉を吊り上げ振り向いた彼は、次の瞬間煙のように姿を消してしまった。

果たして、天下の大泥棒、石川 五右衛門の正体は。


~SHOWGEKI!! 冬演目「天天上々」 劇場パンフレットからの引用

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■引用詳細

 SHOWGEKI! 冬演目『天天上々』より”水面"抜粋。

 二〇十七年十一月八日 - 第一講演


■劇団「SHOWGEKI!」

 演劇界に革新をもたらし続ける今一番チケットの取れない演劇集団「SHOWGEKI!!」

 派手な舞台演出と大立ち回りを得意とし、演出家の「ひらたようすけ」と脚本家「古暮あきと」のタッグで疾走感あるド派手な喜劇から、ド迫力の骨太時代劇まで、誰も見た事のない演目を生み出し続けている。

 本講演は古暮が幼少期に教わった、まったく解釈の違う2種類の話が存在する江戸時代の狐付きの詐欺師の逸話からヒントを得て、歴代の武将を妖怪化するという大胆なアイディアで、史実の舞台裏を見せるフィクション時代劇を確立した。

 次回春講演では、落語怪談「死神」をテーマとした新演目の発表が予定されている。

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