紀伊坂 ノイ 著「とおぼえ」より抜粋

- つ き に む か ひ て


まつくろけな

よるのなか

灰色のみみを

ぴんと立てて

ぼくはゆつくりと走りだす。


走る、走る、走る、

この足のやくめを思い出すやうに

走る、走る、走る、

くびわをつけたこのくびをふって

走る。走る。走る。


あの月をたべるために、ぼくは走る。

吠える、吠える、吠える、

負けてなんかいないのだと

吠える、吠える、吠える、

のどもこまくもひきさくように

吠える、吠える、吠える、

あなたにとどけとぼくは吠える。


飼いならされた  つめときば

いつしかあの空をぼくは忘れるだろふ。

あの空もぼくを忘れるだろふ。

ひきかえにてにいれたのは、このくびわ。


それでも、

やさしいいろとかたちのその手でなでるから

ぼくは、このくびわを

ひきちぎることができなかった。

つきにむかいひて ぼくは吠える。

しっぽをふりながら あなたにとどけとぼくは吠える。



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■引用詳細

紀伊坂 ノイ著「とおぼえ」より抜粋。

二〇十四年二月三日 - 発行。


■紀伊坂 ノイ(きいさか のい)

 紀伊坂 ノイ(きいさか のい)著 「とおぼえ」より抜粋。

 動物や物など人間以外の物の感情や思いを詩にする独特の手法を持つ詩作家。

デザイナーの経験から詩にフォトコラージュのビジュアルを加える事も多い。(代表作:Juvenile Dream.(公明社出版)) 現在は絵本『鳥籠のトラウム』を執筆中である。

 執筆活動以外の制作活動も盛んでありオリジナルブランド『Alice in underworld.』にて、デザインやイラスト、フェイクスイーツや切り絵などの制作活動が行われている。本人が買っている犬はミニチュアダックスフンドであるが、本作品に限らず彼女の作品に出てくる犬は大型犬が多い。家に居る犬には全て食べ物の名前が付いている。

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